平凡

平凡

好きではないはずの、冬のよろこび

寒さに弱い。当然、冬は好きではない。

 

 

ただでさえ寒い一月、大寒のころ。

その名の通り、超級の寒波が来るという。

東京でも水道の凍結の恐れあり、と報が流れる。

うちは外に洗濯機が設置してあるため、めんどくさいな~と文句を言いつつ、凍結防止の対策をする。

といってもシンプルなこと。

タオルを細く切り、蛇口に巻きつける。

隙間ができないように、くるくると。

ダメ押しで、その上から切ったTシャツの袖をかぶせる。

あまったところは、洗濯ばさみできゅっととめてやる。

やっていると、なんだか愛らしいな……という気持ちになってくる。

まるでちいさな存在に、「寒くないように」とマフラーを巻き、ついでにショールでくるんでやっているような。

とくだん蛇口をいとおしく感じるわけではない。

ないのだが、なんというかこの行為自体、愛らしく感じるのだ。

モヤっとした、非実在の、概念としての、愛らしさ。

 

寒波が去ったあと、水道をひねると、いつも通り水が出た。

それは凍結防止のタオルのおかげではなく、東京の気温が予想より高かったせいかもしれない。

それでも、なんともうれしく、やはりいとおしさがわきあがった。

 

暮らしの中で、四季の移り変わりに合わせて、ごくごく原始的な対策を講じる。

人間の力及ばぬ自然の力を感じつつ、「乗り切れますように」と祈りつつ、何かをする。

東京のマンションに住んでいると忘れがちなその営み自体に、いとおしさが含まれているのだろう。

もちろん「いとおしい」なんてのんきなことが言えるのは、自然の驚異を感じることが少ない南関東の都会暮らしだからこそ、ではあるのだけど。

 

 

そういえば、この冬は、大根の葉で作るふりかけにハマった。

きっかけは、ある日、持ち帰ることが大変なほどにわっさわっさと葉をつけた大根を買い求めたこと。

いままでは、葉をわざわざ調理するのがめんどうで、葉付きのものは避けていた。

が、ここまで立派だとさすがに食指が動く。

しかも価格は100円。

さっそく葉を切り分け、王道のふりかけにすることにした。

何しろボリュームがすさまじく、洗って刻む下処理は予想通りめんどうであったものの、葉は火が通りやすく、調理自体はごくごく簡単で短時間なものだった。

そうしてできあがったふりかけは、わずかな苦みと、やわらかな味わいがあって、なんとも美味しかった。

この味なら、多少の「めんどくさい」など吹き飛んでしまう。

ご飯にかけ、おにぎりにし、惜しみつつ食べ切ったある日。

夫婦で散歩中、直売所で見つけたのは、丸くふっくらとした蕪だった。

その先には、我々が求めてやまない青々とした葉がついている。

しかも価格は150円。

料金入れに硬貨を入れた後、夫は蕪を持ち上げ、「蕪っていうより、この葉がうれしいよね」と笑顔を見せた。

この「うれしい」は、我々夫婦がこの冬、見つけたもの。

寒さの賜物だろう。

大根の葉と同じレシピでふりかけを作ったところ、蕪のほうが大根よりもクセがある。

しかし、そのクセこそが我々の好みだということもわかった。

寒い季節には、寒い季節の喜びがあるものだ。

寒いのは、やはり嫌ではあるけれど……。

 

根菜類の値段が上がり、加えて立派な葉付きは見かけなくなった近ごろ。

散歩ついでに以前の住まいふきんへ足をのばしたところ、なじみの精肉店に行き当たった。

ここの肉は、スーパーの底値ほどは安くないけれど、気軽に買える価格帯で、何より料理の味を底上げしてくれるほどに美味しいのだ。

ふらりと入り、豚小間肉やひき肉など、使いやすいものをグラム指定で買い求める。

計り売りなので、「150グラムを2袋」と分包してもらえるのも、使い勝手がよい。

マイバッグに入れて、意気揚々と家路につく。

何しろこの寒さだ。

肉がいたむ心配がないから、急ぐこともなく歩く。

この肉の美味しさを引き立てるのは……やはり炒め物だろうか。

冷蔵庫にあるのは玉ねぎ、白菜、キャベツの残り……。

頭の中ではそれらを組み合わせる、献立スロットが回りつづけている。

 

近所の並木にさしかかる。

見上げた枝の先には、ふくらみがある。

2月に入ると、どうしたって風は春の気配をまとう。

どんなに寒くても、においが違う。肌への当たりが違う。

それらは完全なる冬のものではない。

すくなくともわたしが暮らしたことのある、関西や関東の太平洋側では、そのようなリズムで季節が移ろう。

 

 

寒さは嫌いだ。

春が待ち遠しい。

でも、あとちょっと、ほんのちょっとだけ、寒くていいかな。

またあのお肉屋さん、行きたいし。

みっしり巻いた白菜だって、真冬だけだし。

ちぢみほうれん草も、まだ一回しか食べてないし。

そんなことを考えながら、好きではないはずの冬の一日が終わっていく。

 

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大根の葉やかぶの葉のふりかけは、以下のレシピで作っています。シンプル!

大根の葉のふりかけ | 瀬尾幸子さんのレシピ【オレンジページnet】プロに教わる簡単おいしい献立レシピ

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凍結の写真はぱくたそよりお借りしました。

鋭くとがった湧水公園の氷柱のフリー素材 https://www.pakutaso.com/20210352063post-33118.html

 

大根の画像は写真ACよりお借りしました。

家庭菜園で育てている大根 - No: 25175258|写真素材なら「写真AC」無料(フリー)ダウンロードOK

 

梅の画像は自分で撮影したもの。