夫の横顔が好きだ。
額から鼻にかけてのラインが、なんというかイラスト的な稜線を描いていると、いつも思う。
それでいて線が細すぎない。
漫画家の絵でいうなら、きたがわ翔か、あるいは……。
ある日、「夫の鼻筋はきれいやなあ」と口に出してみた。
夫は照れてふふっと笑ったあと、はっきりとした目つきで、「あ、いま、急に思い出した」と言った。
「親父が亡くなって、棺のなかの顔を見たとき。『きれいな鼻してる』って思った」
結婚したとき、義父はすでに鬼籍に入っていたので、わたしは彼に会ったことはない。
写真のなかの義父は、全体としては、夫にあまり似ていない。
ただ、眉から鼻筋にかけてのラインは、かなり近いものがある。
「いままで親父の鼻のことなんて、忘れていたのに」
夫はぽつりと言う。
たぶん、その日見た、父親の顔のことを思い出しながら。
わたしは、目の前のひとの鼻筋から、もう会うことのできないひとの鼻筋を思い浮かべている。
なんてことない日、生活感あふれる部屋で起こる、記憶の飛び火。
それが線香花火のようにちかちかまたたいて、何かをあえかに浮かび上がらせる。
ひとと暮らしていると、ごくまれに、そういうことが起こる。
それがおもしろいな、と思う。