平凡

平凡

記憶の飛び火

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フリー素材ぱくたそ(www.pakutaso.com)  photo by すしぱく


夫の横顔が好きだ。

額から鼻にかけてのラインが、なんというかイラスト的な稜線を描いていると、いつも思う。

それでいて線が細すぎない。

漫画家の絵でいうなら、きたがわ翔か、あるいは……。

 

ある日、「夫の鼻筋はきれいやなあ」と口に出してみた。

夫は照れてふふっと笑ったあと、はっきりとした目つきで、「あ、いま、急に思い出した」と言った。

 

「親父が亡くなって、棺のなかの顔を見たとき。『きれいな鼻してる』って思った」

 

結婚したとき、義父はすでに鬼籍に入っていたので、わたしは彼に会ったことはない。

写真のなかの義父は、全体としては、夫にあまり似ていない。

ただ、眉から鼻筋にかけてのラインは、かなり近いものがある。

 

「いままで親父の鼻のことなんて、忘れていたのに」

 

夫はぽつりと言う。

たぶん、その日見た、父親の顔のことを思い出しながら。

わたしは、目の前のひとの鼻筋から、もう会うことのできないひとの鼻筋を思い浮かべている。

 

なんてことない日、生活感あふれる部屋で起こる、記憶の飛び火。

それが線香花火のようにちかちかまたたいて、何かをあえかに浮かび上がらせる。

ひとと暮らしていると、ごくまれに、そういうことが起こる。

それがおもしろいな、と思う。