保護猫カフェにて。
背の低い棚の上で、猫が寝ている。からだを伸ばし、前脚と後ろ脚をそれぞれクロスさせ、天板にぺったりとほおをつけて。ハチワレ猫のおなかは白く、からだの中でもひときわやわらかそうな毛に覆われ、ふくふくと上下している。
起こさぬようにそっとそっと、首のあたりをかいてやる。刺激に一瞬、ぴくりとなったものの、害意がないと悟ったのか、すぐにからだをぐいーと伸ばしてまた弛緩する。
すう、すうと寝息が聞こえてきそうなピンクの鼻。今度は額をかいてやると、すこし目が開く。起こしてしまったかと心配したけれど、その瞳は瞬膜に覆われているのだった。起きているときは、ビー玉のように完璧な弧を描く猫の瞳。それを保護しているのがこの瞬膜なのだっけ。
やがてハチワレ猫は、白い前脚を折りたたんであごを乗せる。今度こそ起こしてしまったかと思いきや、まだ白い腹は規則的にゆっくりと上下しているのだった。からだを丸めることもなく、人間の気配におびえることもなく、あたたかなからだはのびのびと。こまぎれで、一回一回は人間よりもずっと短いはずの眠りに身をまかせるその姿。
充足。
猫自身がどう思っているかはわからないけれど、そんなことばが浮かぶ。
ふたたび、首のつけねをゆっくりと丁寧に、かくようになでる。いま、このとき、ここには脅威はない。それをよく知るちいさな命が、目の前で眠っている。その安堵に、まどろみに、こちらの心もゆるんでいく。人生はそれほど怖いものではない。そう錯覚する一瞬がある。指から伝わるあたたかさに眠気を誘われる。
できればこの寝息を、家で聞かせてくれないか。わたしが眠る布団の上で、枕元で、あるいはお気に入りの座布団の上で。食って遊んで眠って満ち足りる。その生きざまを、間近に見せてくれないか。猫といっしょに目を閉じて、ふわふわの毛をなでながら、わたしは起きながらにしてそんな夢を見る。
*画像はぱくたそからお借りしました。
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