平凡

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【ネタバレあり】FGO第2部6章妖精円卓領域アヴァロン・ル・フェのおもしろさとは

昨年からずーっと考えていること。それは、「FGO2部6章を、なぜあんなにおもしろく感じたのか」。

 

このタイトルで「読もう」と思った方には不要な説明かと思うけれど、「FGO」とは何かを説明すると……。

FGOとは「Fate/Grand Order」の略であり、「Fate」シリーズのスマホRPGだ。

Fate」シリーズは、2004年発売のPCゲーム「Fate/stay night」に端を発する。同ゲームのアニメ化のほか、同一世界観での複数作品がジャンルを問わず発表されている。キャッチコピーは「伝奇活劇ビジュアルノベル」。

筋書きの基本は、願望を叶える聖杯の争奪戦。過去の英雄を呼び出した「英霊」(サーヴァント)とマスターが1組になって戦う。異能あり、作中独自のおどろおどろしい「魔術」概念あり。

 

FGOではその世界観をベースに独自の長大な物語が展開しており、現在は2部6章までメインストーリーが公開されている。

 

で、以前のエントリーにも書いたが、その2部6章がめちゃくちゃおもしろかった。わたしは「Fate」シリーズのあまりよいプレイヤー・視聴者ではなく、この2部6章ではじめて、「ああ、このキャラはこのとき、こう思っていたんだろうなあ」と想像が馳せられるレベルで楽しめた。

わたしにとって、「Fate」シリーズを心からおもしろいと思ってみたい、というのはひとつの夢だった。だからこそ、なぜそれが叶ったのか、ずーっと考えていたのだった。

 

それは、たぶん、「上がって、落ちる」物語構造にある。

 

※以下、FGO2部6章妖精円卓領域アヴァロン・ル・フェのネタバレが含まれます。ご注意ください。

 

 

 

2部6章冒頭のあらすじはこうだ。

人類史(今の世界)を守るために旅を続ける主人公たち。ある日、主人公たちは、「世界の崩落」がはじまると予言を聞かされる。何が起こるのか、「崩落」がどのようなものかはわからないが、それは「妖精國ブリテン*1」から起きるというので、当地を目指す。

「妖精國ブリテン」では、2000年にわたって女王モルガンが圧政を敷いており、やがて来る「予言の子」が6つの鐘を打ち鳴らし、国を救うと言われていた。

主人公たちは到着早々、「迷いの森」に迷い込んで名前を忘れ、散り散りになってしまう。そこでひとりの少女と出会い……。

 

ゲームは前半・後半・戴冠式と三部構成。

前半、後半は、おおむね右肩上がり、つまり主人公たちが「何かを得ていく」物語だ。情報を集め、散り散りになった仲間を探す。迷いの森で出会ったアルトリアという少女が「予言の子」とわかってからは、彼女に鐘をつかせるために各地を回る。失うものがあっても、敵味方含め、キャラクターの美点が明かされていく。

たとえば、女王モルガンに忠誠を誓う「妖精騎士ガウェイン」は強敵ではあるが、実は礼節正しく、そして強き者の務めとして、弱き者を守ろうとしている……とか。

そして、主人公たちは、女王を打ち倒す。

 

一方、戴冠式以後は、ひたすら右肩下がり、転落の物語だ。

開幕は、女王になるべく研鑽を積んでいたノクナレアの謀殺。民の「忠誠」から力を得ていた彼女は、その反作用として、裏切りにより、力をどこまでも失って死んでいく*2

それをきっかけに、秩序なき終末がはじまる。そのなかで、前・後半で描かれたキャラクターの美点の多くが反転していく。

ガウェインが目をそらしていたこと。誰よりも美しく優しいと思われていたオーロラの邪気なき邪悪。

キャラクターばかりではない。たびたび美しいと称されたブリテンの、あまりにも禍々しい成り立ちも明かされる。

 

ジョジョの奇妙な冒険』で知られる荒木飛呂彦氏は、その著書『荒木飛呂彦の漫画術』で「エンターテインメントの王道とは、主人公が常にプラスの右肩上がりであること」「一方、例外としてどこまでも落ちていくなら、それもまたエンターテインメント」と書いている。

2部6章は、このふたつを組み合わせているから、おもしろいのではないか。しかも、戴冠式以降で失われるものの大半は、前後半で獲得されたものだ。それらがどこまでも落ちていくからこそ、胸を締めつけられ、心を奪われる。

 

戴冠式」パート配信前のCM。ゲーム中のBGM(アレンジはあるかも)、背景美術を使い、キャラクターの姿が一切登場しないCMながら、「転落」の予兆が濃厚に漂う。モルガン役の声優・石川由依さんの演技もあり、強い印象を残す。

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構造上、大きく2部にわかれる物語ではあるが、それを貫くのは、アルトリア・キャスターというひとりの少女の成長譚だ。

くるくる表情が変わる彼女はたいへんに魅力的だが、その性格はひと言で言い表せるものではない。

田舎育ちで卑屈で、自信がなく、ときに見栄っ張りで、大胆で、努力家。モノローグでは周囲にかなり辛辣な目を向けている。

自身が背負わされた「予言の子」という役割について、重荷に感じる一方、その歩みを決して止めはしない。

「いやだなあ」とつぶやきながら、なぜ彼女は歩きつづけるのか。彼女自身にもわからない。それが、プレイヤーを惹きつける物語上の謎にもなっている。彼女がときおり見ている「嵐」と、その中心で輝く「星」の正体とは……。

何かを成し遂げた英雄*3が同名で多数登場する「Fate」シリーズにあって、彼女はかなり等身大に近い存在だ。とくにこの2部6章では膨大なシナリオをさき、その内面をたっぷりと描いている*4

それだけに、物語最終盤、嵐のなかで輝く「星」の正体の身近さ、ささやかさに、彼女が歩みを止めなかった強さに、胸を打たれる*5

 

おそらく、わたしが感情移入できたのも、ここに理由がある。

先ほども述べたとおり、「Fate」シリーズといえば、実在の英雄が「英霊」となって登場するのが肝のひとつだが、2部6章に登場するキャラクターたちは、ほぼこのシナリオ独自の存在だ。

「妖精騎士ガウェイン」「妖精騎士トリスタン」と名がついていても、それはある理由で名前を借りているだけ。わたしたちが知っている円卓の騎士とは、ほぼ関係がない。

普段の「英霊」たちを中心にした物語は、彼らの偉業を振り返ることでより深く楽しめるものが多い。知識がなく、また、二次創作的な想像力を膨らませるのが苦手なわたしは、どうしても行間を埋めることができない。

ただ、2部6章では、物語を集中して深く味わえば、わたしでもそれなりの行間を埋めることができたのだ。

 

Fate」シリーズが長く続き、多岐にわたる展開を見せたことで、奇跡的にわたしが理解できるものと重なったのが、この2部6章なのだろう。

そのおもしろさの源泉を分析し、残しておきたいと思い、このエントリーを書いた。

*1:正確にいうと「ブリテン島にある妖精國」のようだけれど、便宜上こう記述します

*2:ノクナレアのいまわの際の台詞には、男女マスターで差がある。ただ、ネットなどでよく言及されるのは恋愛に関して。おそらくこれも男女差分だと思うのだが、女性マスターでプレイしている場合、自分の名前についても言及がある。彼女がどのように自分の立場をとらえていたのかがわかる台詞となっており、「こんなことを思いながらがんばっていたのか」と思うと胸が詰まる。ぜひチェックしてみてほしい

*3:作家、神、超有名キャラクター含む

*4:彼女があの生まれ育ちであのキャラクターを保っているのは等身大ではないのだが、等身大に感じられる描かれ方をしていると思う

*5:書いていて気づいたのだが、アルトリアの「状態」だけは、いろいろなものを失いつつも右肩上がりかもしれない。妖精たちの裏切りもショックではあっても、予測はついていたので打ちのめされることはなく。そして2部6章においては実質の主人公はアルトリアなので、エンタメの黄金道