16時半。
発車に間に合うだろうか。
息を切らせて走ってようやっと、隣の隣の町までのバスに乗る。
あと数日で冬至だ。
日はもう暮れかけている。
電車でいけば迂回必須。
バスで行けば6キロ前後で40分あまり。
微妙な郊外の街へと向かったのは、そこにとあるチェーンのシネコンがあるからだ。
年内いっぱいで一時的に地方へ居を移す友人へ、そのチェーンで使える共通鑑賞券を贈りたかった。
鑑賞券を買って、ついでに映画を見てこようという寸法だ。
ふだん歩いている街を、高いところから見る。
バスの移動は、いつも不思議な感慨があって好きだ。
コロナ禍で前方の座席が封鎖されているから、陣取るのはいつも、後輪の上にあたる席。
そこで体を丸めて、窓に張り付く。
ああ、ここ、最初の緊急事態宣言のとき、夫とがんばって歩いた場所。
あの非常事態に、この何もない郊外にジェラート屋がオープンすると聞いて、ふたりでふうふう言いながら歩いた。
春にしては暑い日で、角っこのコンビニエンスストアでジュースを買って一休みして。
ジェラート屋は盛況とまでは言えなかったけれど、わたしたちのような中年夫婦のほか、近所で工事をしている人たちもいた。
それぞれが思い思いのフレーバーを選んでおり、「みんなのジェラート屋さん」という感じがしてよかった。
肝心の味や、どんなフレーバーを食べたのかは皆目思い出せないけれど。
この道は、ホットドッグがおいしいカフェを目指して来たこともあったっけ。
宙に浮いた、あの不思議な時間をしばし思い出す。
そういえば、あのジェラート屋はまだあるのかな。
インスタを開く気にもなれず、疑問を空に放り投げる。
坂を上って、くだって。畑の向こうの空は、もう昏いオレンジ色だ。
まさに「黄昏」。
葉をすっかり落とした木のシルエットは影絵のよう。
それを見て、急に不安に襲われる。
ヘッドホンを取り出して、米津玄師の「KICK BACK」を音量を上げて聞く。
来年はどうなるんだろう。
映画チケットを贈る友人は、いつごろ東京に帰ってくるのかな。
今日が暮れ、今年も暮れていく。
すべてのものには終わりがある。
冬至には、一番昼間が短くなる。
でも、冬至ははじまりでもある。
ここから日脚はのびていくからだ。
昔の人は太陽が力を取り戻すと考えて、冬至を「一陽来復」と呼んだ。
バス停に着くたび、冷たく乾いた風とともに、人が乗り込んでくる。
寒くなって寒くなって寒くなって、やがてある日、風のにおいが、肌ざわりが、変わっていることに気がつくのだ。
それまでは、生きていよう。
もう木々のシルエットは見えない。
家々の向こうに、夕暮れは尽きようとしている。
「KICK BACK」のボリュームをまたひとつあげて、わたしはバスの後輪のうえで、からだを丸める。
丸めてただ、バスが終着点に着くのを待っている。
***
今年最後の更新となります。
皆さま、本年もお読みくださりありがとうございました。
今年は12月に入り、ちょっとばかり、本当にちょっとばかり調子を崩してしまい、2022年がどんな年だったか、よくわからなくなってしまいました。
来年はもうすこし……なんというか、元気いっぱいにお送りしたいですね!
来年もご愛読いただけたらうれしいです。
新年が皆様にとって、よきものになりますように。
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画像は写真ACからお借りしました。
《https://www.photo-ac.com/main/detail/23244812&title=%E5%86%AC%E3%81%AE%E7%AB%8B%E6%9C%A8%EF%BC%92》