平凡

平凡

ライター仕事で知った“美味しい”を伝える才能

こんにちは。紙媒体などでライターをしております平凡です。

コロナ禍で避けられていた対面取材やインタビューも増えてきました。この季節は着るものに困りますね……。

 

ところで。「食」系の取材ってありますね。わたしもときどきやっております。ジャンルは料理とかコーヒーとかスイーツとかかき氷とかいろいろです。こちらもコロナ禍で激減したものがぼちぼち戻ってまいりました。

 

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取材撮影時は、料理をカメラマンさんに撮ってもらって、わたしはひたすらお店の方に料理について聞くわけです。食材は何を使っているのか、調理法のポイントはどこか、味付けは……などなど。あと、お店のコンセプトや歴史について*1

 

撮影が終わると、たいてい「試食していってください」となります。食系の記事というと、「『プロバンスの風が駆け抜けるような爽やかな味』とか書くの?」と聞かれることがありますが、そういう主観的なことは書きません。「隠し味のレモンが香り、後味さっぱり」とか「何々の酸味となんとかの甘味がマッチ」とか、事実ベースに「どんな味覚体験ができるか」を書きます。

で、味覚体験について書くのだから、実際に食べられるなら食べたほうがいい。ここで注釈をつけておくと、撮影した料理を食べられないこともあります。撮影用なので味付けをぜんぜんしていないとか、そういったケースもあるのですね。

 

何らかの理由でそのお店を選び、「取材させてください」と依頼したわけで、お料理にしてもなんにしても非常に美味しい。しかも、お店の方から「美味しさの秘密」的なお話を聞いているからなおさらです。で、感想を伝えるわけですが――。

わたしは緊張しやすい性質なので、美味しければ美味しいほど「伝えねば!」と肩に力が入ってしまいます。結果、モゴモゴなんか早口で言って、「お、美味しかったです」とやっぱりモゴモゴ伝えることになります。表情も固い。

食べてわからないことがあれば、「この香辛料がサーッとした香りで……なんていうか、サーッとしていい感じですが、何が入ってるんですか?」と、職業を疑われかねないボキャブラリーと重複表現で感想を伝えつつ質問をすることがあります。

そうすると、お店の方の表情が切り替わるんですね。なんというか「食べるお客様を見つめる柔和な表情」から、「取材を受けるスタッフとして、説明しなきゃ」のインタビューモードになる。

これはもちろんお店の方のせいではなく、わたしが「ライターとして質問しまーす!」という姿勢になってしまうから。

 

で、ここで救ってくれるのが、わたし以外の取材スタッフです。他のスタッフが「美味しい!」とひと言言うと、お店の方は、再び「食べるお客様を見つめる柔和な表情」に戻るんです。そうしてリラックスすると、「そういえばこのお料理は……」と、取材時以上の情報を語ってくれることがあるのです。

「わたし以外のスタッフ」とざっくり書きましたが、ことにカメラマンさんだとその効果は絶大です。「美味しい料理をものすごく美味しそうに、美しく撮影した」信頼感があるからひとしおなのでしょう。

 

そのなかでも、お店の方を笑顔にする天才だなーと感じた人がふたりいます。ひとりはカメラマンさん。ひょうひょうとした男性で、彼が「美味しい!」とひと言言うと、お店の方の顔がパッと明るくなる。ちょっと気難しい方なのかもしれない……なんて思っていたケースでも、そのカメラマンさんが「美味しいですね、これは何が入ってるんですか?」などなど話すと、お店の方が本当にうれしそうに料理について語ってくださる。

 

もうひとりは、広告関係の仕事で一緒になった営業の女性でした。彼女はとにかく食べるのが好きで、さまざまな食べ歩きの経験も豊富。でもグルメという雰囲気は醸し出さない。試食時、「この何々がほんっとに美味しいです!」と彼女が顔を輝かせると、お店の方も「そうなんですよ!」と元気になり、我々スタッフ一同も楽しい気持ちになったものです。そのお仕事では、試食の時間や会話が楽しみでした(コロナ禍前のお仕事でした)。

 

何が違うのかわかりません。わたしにわかるのは、彼や彼女の「美味しい」には魔法があったこと、そして「美味しい」とその場で伝えるのに特別な言葉はいらないことでした。

 

ライティングとは外れますが、今回はお料理取材で実感したひとつの才能の話でした。

彼、彼女のような天才になれなくても、もう少しこう……リラックスして話してもらえるようになったら……と、食系の取材に限らずいつも思っています。

 

画像は《話題の九州パンケーキにフルーツ盛りのフリー素材 https://www.pakutaso.com/20180413102post-15912.html

*1:WEB系のライターさんには、ご自身でめちゃ美麗な写真を撮影し、かつ取材される方もいます。撮影の腕もすごいですが、カメラマンさんとの分業なしに、撮影から取材までを限られた時間でこなしているのがすごいなと思うのです……