平凡

平凡

魚がうまい街

引っ越しとは、生活圏を変えること。そのなかで、思わぬ喜びが見つかったりもする。昨秋に引っ越した我々にとって、それは「魚」だ。

 

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引っ越し先は、なんてことない郊外の街。海も市場もたいして近くはない。しかし、なんでか魚にめちゃくちゃ力を入れたスーパーが複数ある。

 

そもそもこの地域、駅から5分で畑が広がる土地柄ながら、妙にスーパーが多い。徒歩圏内に5軒。野菜や肉も扱うドラッグストアを入れれば6軒。チェーンもあれば、個人店もある。それぞれ安いものが違って、なかなか楽しい。

 

なかでも駅前の「ロイヤル」は、いまどき珍しいチェーン系ではないスーパー。店内は薄暗く、扱う品物はかなり種類を絞っている。なんでもかんでも揃うわけでもないし、すべてが安いわけでもはない。しかし、なぜか巨大なアロエの葉を売っていることがあるから油断できない。

 

店内奥まで進むと、店舗面積の三分の一を占めようかという海鮮コーナーが広がっている。

刺身コーナーには、メバチマグロや輸入サーモンなどの定番に加え、イサキ、ヒラマサ、キンメダイ……そして、チビキ(赤鯖)やヒゲソリダイなど、聞いたことがないものも。どの刺身も一切れが厚く、色つやがすこぶるよい。

 

刺身コーナーの背後の巨大な冷蔵ケースには、一尾丸々の魚が並ぶ。「キンメダイ 刺身用」「京都産 ほうぼう」「岩手産 どんこ」「青森産 真ソイ」などなど、これも種類豊富だ。魚を捌けないわたしには用がないものながら、ついつい見てしまう。「この魚はこんな形をしているんだ」と現代っ子っぽい反応をしてみたり、帰ってからインターネットでどんな魚かを調べたり。

切り身のコーナーはわずかだが、こちらも近海産中心。この季節でもブリ一辺倒ではなく、日々入れ替わる。「鮭」のほかに「本マス」が売っているのが、たいへん新鮮だった。鮭とマスの違いは、解説を読んでも違いがよくわからない。が、「本マス」は見たことがないような紅桜色の身をしており……ええい、買ってみればよかった!

www.nagatoku.jp

 

かまぼこなど加工品コーナーの手前には、発泡スチロールに海水を張り、ポンプを入れた文字通りの鮮魚コーナー。活きた魚介を売っている。季節柄なのか、貝が多い。ホタテ、サザエ、ホッキ貝……この前は小さな蟹も売っていた。サワガニでもなく、見たことがないもの。

にぼしはパッケージングされた市販のものに加え、発泡スチロールのトレイに入った瀬戸内海産のものも扱っている。お徳用の海苔はほかのスーパーでは見たことがないもので、なかなか美味しくて、安い。

 

と、とにかくロイヤルは海産・海産・海産の店なのだ。「誰が買うんだ?」と思うが、魚は常に新鮮で、入れ替わっている。このあたり一帯の和食屋、海鮮系居酒屋を一手に引き受けているのかもしれない。

ともあれ、値引きの時間でなくても、海産コーナーには客が滞留している。「魚のロイヤル」なのだろう。

そういえば大学時代、四国出身の子が、「魚はふつうに捌けるよ、みんな」とざっくりしたことを言っていた。意外と魚が捌ける人は多いのかもしれない。

 

潮の香りの片りんもないこの街に、このロイヤルに加え、駅前の反対側には、刺身のサクが異常に充実したスーパーまであるから恐れ入る。

 

我々には魚の知識がない。寿司屋へ行っては「もっと勉強しないとね……」と言っているような、無知蒙昧な夫婦である。

まずは刺身で美味しそうなものを買ってみて、「ヒゲソリダイってなんだろう?」とネットを駆使して調べながら楽しんでいる。

ヒゲソリダイは、その名の通り鯛の一種で、白身ながらもねっとりとした食感だった。淡泊ななかに脂の旨みも感じられて、「旬の鯛とはこういうものぞ!」という美味しさ。

漁港で食べるものには劣ると思うが、「刺身が美味しい、都内の海鮮系居酒屋」ぐらいの満足感はある。

 

というわけで、ロイヤル通いが楽しみになっている今日この頃。一年この街に暮らしたら、すこしは魚介類についての知識が身に付くだろうか。いや、このエントリーを書くにあたって、何度かロイヤルに行っては「魚の名前をぜんぶ忘れた……」を繰り返したので、あやしいものだが。

前に住んでいた場所では、「旬の野菜を買うならこの青果店」「顔を覚えられてるっぽい精肉店」があり、離れるのがさみしかった。新たな街には、新たな出会いがあるもの。気分も変わり、刺激もある。

ロイヤルが率いる(?)お魚帝国の広がりは、引っ越してよかったなと思う理由のひとつになっている。

皆さんの街には、どんなお店がありますか?

 

以前の引っ越しと、その街で暮らす喜びをつづったエントリーはこちら。

hei-bon.hatenablog.com

 

写真は《朝市で売られている鮮魚のフリー素材 https://www.pakutaso.com/20160135028post-6718.html