平凡

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『デパプリ』と『根津さんの恩返し』に見る、コミュ障あるある

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こ、コミュ障の解像度が高すぎる……ッ! ここひと月ほどで、そううならされたフィクションがふたつある。

 

コミュ障とはいわずもがな、コミュニケーション障害、人との交流が苦手な人の総称である。何がどう苦手なのかは人それぞれで、抱えている悩みもそれぞれ。ただ、「不器用で、会話などが苦手」であれば使える便利な言葉だ。

 

「コミュ障」キャラは、「引っ込み思案」「気が弱い」などのキャラクター紹介とともに、フィクションにもしばしば登場する。で、「細かいところがわかってんなーッ!」「わかる! わかりすぎて嫌になる!」と思ったのが、『デリシャスパーティ♡プリキュア』(以下、『デパプリ』)だ。

 

『デパプリ』冒頭から、たびたび「クールなお嬢様」として描かれてきた、芙羽ここねというキャラクターがいる。そのここねと主人公の和実ゆいがはじめて深く関わるのが、4話だ。

しかし、「才色兼備のお嬢様」「わたしたちとは世界が違う」として周囲が遠巻きにしていたせいもあってか、ここね自身は同年代の友人とまともに接したことがない。

クールで自信ありげなこの容姿にして、超絶・人付き合いに不器用なのだ。

www.toei-anim.co.jp

 

距離をちぢめたここねとゆいはベーカリーカフェへ行き、ゆいはロールパンサンドとハートパンを注文。「ロールパンサンド、わたしも迷った」と言うここねに、ゆいは「じゃあ、どうぞ」と、ごく自然にロールパンサンドを半分分けてくれて、ここねは感激! しかし、「ありがとう」と言うもぎこちなく。ここね自身もゆいにカレーパンを分けようとするが、どうにもぎこちなく……。

 

このあたり、「すべてが自然」なゆいと、「すべてに肩に力が入ってしまうここね」の対比は、非常に心当たりがある。

自然に感謝を、好意を伝えたいのにタイミングがつかめなくて、伝えたいほどに肩に力が入ってしまうあの感じ……あなたにも心当たりがありませんかッ? えっ……ない? わたしにはあるッ! とくに思春期はそんなばっかだったよ……。

そして、いろいろあって、ここねは二人目のプリキュア、キュアスパイシーに変身する。

バトル後、ここねは「(ゆいと)一緒だからできた」と、勝利の喜びをわかちあった後、「ずっとあなたに伝えたかった」と前置きし、「ありがとう」と伝える。

いやいやいやいや、「ずっと」って、まともに話してから1日経ってないよね? いきなり重いよ! でも、気持ちはわかる……。だって、こんなに自然に接してくれたの、ゆいがはじめてだもんね。この軽重がおかしい感じも、なんだかわかる……。

 

5話は、彼女の不器用ぶりがよりクローズアップされた回だ。

はじめてのお友達にとまどう彼女は、その名も「新しくできた友達と仲良くなる方法」というハウトゥ本で人付き合いをお勉強。一緒に暮らすことになった妖精のパムパムに、「そんな本を読むより、普通に楽しく遊べばいいパム!」と言われてしまう。これは、中年になったわたしの心にも効きましたね。我々は、「普通に楽しく」ができないんじゃーーーッ! ぐわっぐわっ。まさか語尾が「パム」の妖精に、痛いところを突かれるとは……。

 

朝、ここねはたまたま見かけたゆいに声をかけようとするが、どうやって呼びかければいいかわからない。気づいたゆいから、「おはよう、ここねちゃん」と下の名前で呼びかけられたここねは、心の中だけで大喜び! 瞳をキラキラさせたここねの顔に、「ここねちゃん」「ここねちゃん」という字幕が弾幕のように走る演出がなされた(笑)

その後、ひとりになったここねは、ふたたび「新しくできた友達と仲良くなる方法」を開く。「お友達を下の名前で呼んでみましょう」というアドバイスに、「ゆい……」「ゆいちゃん……」とひとりで練習。うん、わかる。下の名前で呼ぶのって緊張するよね。

 

コスメショップにやってきたゆいたち。「ゆい」と下の名前で呼ぶことができたここねは、ちょっと大胆に。リップを見ながら迷っていたゆいに、「薄いピンクならどんな服装でも合うし、しっかり色づけたいならこっちを……」と解説。得意なことなら、突然饒舌になる。このアンバランスッ! 

しかし、メイクに興味がなかったゆいは「でも、それっていつ使うの?」と無邪気に質問。「押し付けるようなことをして……ごめんなさい」と、ここねはシュンとしてしまうのであった。

そして、「解像度高ぇ~~~」と思ったのが、ここねがゆいの家に遊びに行くくだりだ。彼女、ゆいの母親には「はじめまして、芙羽ここねです」と表情明るく、自然に挨拶するのである。

これ、わかるんですよ。「はじめてお邪魔したお宅への、定型の挨拶」だからスラスラできる。で、「礼儀正しい子ね」とかなんとか言ってもらっても、その後の雑談がぜんぜんできないのだ……。フリースタイルになると! 弱いの! コミュ障は! 

 

と、『デパプリ』のここねちゃんは、前代未聞のコミュ障キャラなのだ。しかも、「暗い」「引っ込み思案」ともちょっと違う感じの描写が細かい。

プリキュア』は15年以上続き、多数のキャラクターが登場するシリーズだけれど、こういった書き分けがほんとうに上手い。

今後1年間、芙羽ここねちゃんの成長を見守り、わたしもその成長のエッセンスを取り入れたいと思います!

『デパプリ』は、Netflixで最新話まで見られる。入会している方は、ぜひ4、5話で、「異常に解像度が高いコミュニケーション苦手な人間の姿」を見てほしい*1

 

もうひとつ、「社会人になった後のコミュ障描写」でうなったのは、『根津さんの恩返し』だ。こちらは漫画。単行本は1巻が発売されており、pixivコミックやピッコマなど各種配信サービスでも読むことができる。

www.comic-brise.com

主人公は、自他とも認めるコミュ障OLの小宮祥子。彼女はある日、ことばをしゃべるねずみ・根津と出会い、あることの恩返しとして「願いを叶えてあげる」と提案される。祥子は思わず、「コミュ障を治したい」とお願いし、根津と二人三脚でさまざまなコミュニケーションにチャレンジしていくことになる。

 

こちらも、「飲み会では手持無沙汰だし、ドリンクを積極的に頼むのも気が引けるので、手もとのドリンクをちびちび飲む」など、「あ~~~これは『あるある』ですねえ」と言いたくなる描写が多い。

この作品のポイントは、祥子は話しかける勇気はないし、雑談が苦手なまごうことなきコミュ障なのだけど、周囲のことはよく見えており、優しい人物であること。

飲み会で、祥子は「一見にこやかにしているけど……。あの人吐きそうなんじゃない?」という男性社員を発見。しかし、その人は、話し始めるとなかなか離してくれない課長の隣にいて……。祥子は勇気を出し、「課長とお話してみたいので、お席変わっていただけますか?」と声をかける。しかも、すれ違いざまに男性社員にビニール袋を渡すのだ。もちろん、席を変わったものの祥子は雑談などできず、「つまらんじゃないか」と課長に言われてしまう。

上手く話しかけられないことを自覚している人間が、「席を変わってください」と声をかける。しかも、助けたい相手は、「吐きそうに見えるけれど、本当に吐きそうかどうかわからない」状況なのだ。

これがどんなに勇気がいるか、コミュ障なら痛いほどわかる。だからこそ、祥子の心優しさには胸を打たれるし、「たとえコミュ障でも、こんなふうに周りが見えていて、勇気が出せたらすてきだな」と憧れもする。

『根津さんの恩返し』は、「あるある」にうなずきながら、そんな祥子の姿に心洗われる作品なのだ。

『根津さんの恩返し』は、絵もほんわかしていて、とてもかわいい。試し読みで気に入ったら、裏切られない作品だと思う*2

 

「コミュ障あるある」「解像度高い!」と思える作品が増えてきたのは、「コミュニケーションが苦手なんだ」と、昔よりは言いやすくなった昨今ならではなのかなとも思う。「我こそはコミュ障なりぃ!」という人は、『デパプリ』と『根津さんの恩返し』をぜひチェックしてみてください。

 

 

写真は《コーナーの端に追い込まれたハリネズミのフリー素材 https://www.pakutaso.com/20190421106post-19477.html

いわずもがな、ハリネズミのジレンマにちなんでの写真選択だよ、ちくしょー!

*1:『デパプリ』以前、プリキュアの最新シリーズ見逃し配信は、Tverのみだった。Tverでチェックできるのは最新話だけ。それ以外に見逃した回を見る方法は、DVD化された後にチェックするしかなかった。有料配信でいいから、最新シリーズも全回見逃し配信してくれよぅ……というのはファンの悲願。Netflixでの最新シリーズ配信は、本当に本当に画期的で、待望なんです……!

*2:あと、「会社内でのちょっと嫌なコミュニケーション」「緊張するシチュエーション」の描き方もとても上手いと思う