平凡

平凡

ライターにまつわる誤解。「ライターには文章力は不要!?」って話とか

今日も今日とてライター話です。

 

ライターを巡る言説のうち、ここ数年で五本の指に入る衝撃を受けたのは、以下の記事でした。「ライターについて知ってほしい」と考えるようになったきっかけのひとつです。

もう6年近く前になるので、クラウドソーシングの現場も変わってきている可能性も高いですが……。内容については読んでいただくとして。

 

magazine-k.jp

 

この記事には、いくつか引っかかりポイントや、典型的なライター誤解ポイントがいくつかあります。

 

まず、記事内で、従来型のライターの報酬について「原稿用紙1枚で数千円から数万円」と表現される点。1文字何円、原稿用紙1枚いくらという換算に、わたしは馴染めないんです。なぜなら、以前のエントリーに書いたように、わたしのようなライターは、手配などの手間もコミコミでお金をもらっているから。名目はたいてい「原稿料」ではありますけれど。

 

ライターの仕事の“内訳”について書いた記事がこちら。

hei-bon.hatenablog.com

 

評論も載せているような媒体で、「うちは原稿用紙いくら換算なので」と言われたこともありますが、稀です。そういった媒体の場合であっても、わたしが書いたのは当然、評論ではなく、インタビューだとか何かの紹介とか。「うちは原稿用紙換算でやってるけど、この仕事の場合はどうなります?」と、相談がついてきます。

たとえば書く文字量はトータル800字(原稿用紙2枚)の仕事があったとして。実際書くのは80字の原稿が10個。関係先が20か所あり、素材の手配も校正も込み(たとえば1つのモノをひとつの個人が推薦する、といったケース)。関係先のうち10か所は企業の広報窓口ではなく個人で、連絡方法にも気をつかう……。冒頭の記事を書いた人は、そんな仕事を“高級な仕事”“原稿料1枚で何千円も何万円も稼いでいる”と思えるのかどうか。

編集者が段取りをしてくれるインタビュー仕事でも、基本的には文字量換算で原稿料を伝えられることはありません。たくさん書いても書かなくても原稿料一緒ってことでもあるんですが。

媒体やレギュレーションにもよると思います。音楽雑誌の1万字インタビューとかはどうなのかなあ。専門性の高いインタビューの場合は、「本人が蓄積した専門知識に加えて下調べをし、作品への知見を深めたうえで、アングルを考えて切り込む」という「書く」以外の下支えが強大です。ただ、専門性が高いからといって、原稿料が高いわけではないのが、この業界のいかんともしがたいところです*1

 

それと、「筆力があったら仕事が取れる」というのも誤解です。同業者には、「ライターは文章が上手くなくていい」と言う人は多いですし、わたしもそう思っています。

我々の至上命題は、以下ふたつ。

1「よい素材を集め、情報密度を濃くする」

2「わかりやすく誤解なく伝える」

「1」も「2」も大切ですが、まず「1」ありきで「2」があります。そして、世間では「2」のほうだけがクローズアップされがちです。「2」は文章力といえば文章力なのでしょうけれど、世間が抱くイメージと実際は、ズレがあるような気がしてなりません。何より「文章力」とか、「文が上手い」って、ふわっとワード過ぎて、人や場面によって指すことがまったく違うんですよね……。

 

で、同業界隈では、「書くのが好き」ってけっこう警戒されるワードなんですね。わたしはバンバン言っちゃってますが……。そんなわたしも、このワードが警戒されるのは、ちょっとわかります。

その理由は「文章は最低限書ければいいし、最後の仕上げ。なので、書くこと『だけ』が好きで、他はやりたくないのでは困る」「さらりとした文章を求めているのに、すごく凝った文章を書かれたら困る」あたりでしょうか。

 

冒頭の記事を書いた人が持っていないのは、「(それなりに)適正な対価が得られる仕事へのつながり」だけです。筆力に関しては、あれだけの文章が書けて、読ませて、伝えることができるのですから、問題なんてあるわけがない。

 

ライターと文章力(筆力)に関しては、上記のように微妙なところがあります。不要とまで言っちゃうと、これまた違う誤解を招きそう。「人に伝わる」を前提とした文章であれば、上手いにこしたことはないです。でも、「美文を書けないとダメ」ってことはなく、むしろ個性的な美文はたいてい邪魔になります。

ただ、「筆力・文章力があればいい仕事が獲得できる」は完全なる誤解です。文章を研ぎ澄ませることで狙える仕事があるとしたら、“高級ライター”の仕事ではないはずです。それはエッセイ、論評に近いものでしょう。

 

わたしはよく文章についていろいろと書いており、それは「ライターには文章力(筆力)が必要」という誤解を助長している側面もあり、心苦しいです……。

 

それらを総合すると、次に紹介する匿名ダイアリーになるわけですが……。わたしはこういう言い方は極力避けたいんです。若き日にこういった記事を読んだら、きっとシュンとして、ライターにならないどころか、いじけて人生を無駄にしてしまっただろうから。

この記事は最近読んだのですが、「書く」とそれ以外の作業の割合が自分が考えているのと同じで、その点は、「やっぱりそうだよね!」と思いました。

anond.hatelabo.jp

 

繰り返しになりますが、「原稿を書く」って、この匿名ダイアリーにあるように、書くというアウトプット「だけ」で成り立つものではないです。調べたり、素材揃えたり、そのために電話してコミュニケーション取ったり、インタビューして話を聞いたり、さらにその前に下調べしたり。

ただ、取材やったことないし人見知りだけど、やったらできた。電話苦手だけど、取材のアポ入れのためならドキドキするけどかけられる。原稿を書くために必要なことだから、もろもろがんばれるって人は多いと思うんです。

最初のステップとして求められるのは、雑談などのフランクなコミュニケーション能力ではなく、礼儀正しく何かを申し入れ、手配すること。

もちろん、コミュ力はあるにこしたことはないです。雑談できるライターさんはとてもとてもうらやましい。でも、「未経験の/コミュ力が低い/お前にはどこにも居場所はないんだぞ」みたいなことは言いたくない。自分がまさにそうだったから。

 

ただ、エッセイとの混同はいかんともしがたい!

この誤解だけは、なんとか解いていきたいと常々思っています。ライター仕事とエッセイとか小説って、ぜんぜん違うものです。つながりもありません。「ライター、編集者を経てエッセイストに」といったケースが意味するところは、「銀行員を経てエッセイストに」と変わりません。どっちにも飛躍があって、飛んでる距離は似たようなもの。

「ライターになりたいなあ」と漠然と思う人には、このことだけは念頭に置いてほしい。そこは切り分けたほうが幸せになれるからです。

そして、匿名ダイアリーにあるように、「ライター」という職業名が搾取に使われるとき、このへんの混同を利用しているのはたしかです……。

ライター仕事とエッセイ、小説の違いについては、また改めて書きたいです。

 

冒頭の記事では、従来型のライターが“高級ライター”と称されているんですね。これ、すごい衝撃でした。

ぶっちゃけライターってそんな儲かる仕事ではないです。ここ数年、原稿料は下がり、作業量は増える傾向はつづいています。時給換算したらワープアもいいとこだと思うんですね(人によります)。

わたしがフリーでライターをやっているのは、ワープアだろうがなんだろうが、いまの形が自分にとって結果的に楽で、何より持続可能だからです。

もちろん、いろんなライターがいます。すっごい稼いでいる人もいます*2。あと、自分で編プロ作る人もいる。「名前を知られている人が稼いでいる」と思われがちで、それはあながち間違えではないのですが、「最近、お名前をお見かけしないな」という方が、実は表に出ない案件ですごく稼いでいることも多いです。

冒頭に挙げた記事はそういったグラデーションは意識していないと思われますが、ふつうの商業媒体の原稿料は、それほど多額とはいえません。そのうえ、ひとりでやってる限り、請けられる仕事量には限りがある。

それでも、“高級ライター”と呼ばれる。ただの電話が携帯電話の登場で“固定電話”になったように、“ 1円ライター”なる呼び方が出てきたから、わたしたちを“高級ライター”と呼ぶ人が出てきた。そのことに言い知れぬむなしさを覚えたのでした。

冒頭の記事を書いた人が“高級ライター”としてイメージしているのは、わたしのようなタイプではないのかもしれない……が……ややこしいので、そういうことにして話を進めました。

 

冒頭の記事から6年。書き手のライターさんはお子さんがいらっしゃると書いていました。お子さんが成長して、経験を積んでチャンスを得て、仕事のやり方も変わったかもしれません。わたしよりずっと稼いでいるかもしれません。そうしたら、またどこかで見てきたことを書いてほしい。

わたしも世間もたぶん、Webライティングについて誤解していることはたくさんある。何より、いまもきっと、「在宅で書く仕事をしたいなあ」と思いつつ、搾取構造の前に茫然としている人はたくさんいるでしょうから。

*1:たぶん出版関係者とそれ以外で、この手の長文インタビューの「原稿料予想クイズ」をやったら、かなりの開きが出ます

*2:この「すっごい稼いでいる」っていうのもふわっとした言い方ですが