記事の性質上、『劇場版 呪術廻戦0』についてのバリッバリのネタバレがあります。
これから見ようかな~、ネタバレ絶対NG! と思っている方は、そっと閉じてください。
本記事では、『劇場版 呪術廻戦0』の物語の構成分解をやっています。
『劇場版 呪術廻戦0』の物語を知っていて、かつ、創作や、物語の構造に興味がある方向けの記事です。
- 『呪術廻戦』とは
- 簡単な感想
- 『SAVE THE CATの法則 本当に売れる脚本術』で分解する『劇場版 呪術廻戦0』
- 「行動」で語られるキャラの性格や状態
- 蛇足1 たったひとつ、作品を見ていて疑問だったこと
- 蛇足2 『劇場版 呪術廻戦0』の「動き」の気持ちよさ
『呪術廻戦』とは
表題通り、『劇場版 呪術廻戦0』を見てきた。
ご存知の方がほとんどかと思うが、いちおう解説を。
『呪術廻戦』とは、芥見下々さんによる「週刊少年ジャンプ」連載中の漫画(2018年~)。
2021年12月現在、累計発行部数は6000万部。
平たくいうと、すごく人気のジャンプ作品です。
2020年にアニメ化されると、物語やキャラクターの魅力に加え、凝ったアングルで動きまくるアクションでも話題に。
主人公は、人の負の感情が具現化した「呪い」を祓う「呪術師」の卵。
「呪術高専」で学び、実戦をし、仲間と切磋琢磨する。
成長やバトルなどの王道要素は押さえつつ、人の「呪い」がモチーフだけに、雰囲気はダークで、ときに展開はハード*1。
『劇場版 呪術廻戦0』は、本編の前日譚。
世界観や舞台についての説明もあり、これだけ見てもじゅうぶん楽しめる内容となっている。
簡単な感想
感想を簡潔に述べると、原作、TVシリーズのファンなら映画館で見て後悔はしない作品。
期待されるアクションシーンもたっぷりで、声優さんの演技も見事。
主人公の成長や友情といった「王道」を軸に、愛と呪いの反転、友情とその反転など、「この作品ならではのビター、ダークな要素」もしっかり入っている。
ハイクオリティな映像で、『呪術廻戦』の魅力を詰め込んだ104分と言える。
………………。
………………。
感想のつもりなのに、解説風になって、あまり魅力的に……見えない……。
『SAVE THE CATの法則 本当に売れる脚本術』で分解する『劇場版 呪術廻戦0』
で、ここからさらに「作品を魅力的に紹介する」路線から外れた話をする。
『劇場版 呪術廻戦0』を見ていて感じたのが、「構成がめっちゃキレイ!」ということ。
「最初に提示された主人公の問題を解決する」ストーリーが、90分超(実際は104分)にまとめられている。
コンパクト!
以下、『SAVE THE CATの法則 本当に売れる脚本術』を参考に、分解してみた。
慣れていないのとうろ覚えなので、おかしなところがあるかもしれない。
構成の分解なので、作中の用語などには解説なし。
また、主人公の「乙骨」に焦点を当てた分解であることを断わっておく。
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第1幕
●オープニングイメージ
呪術高専の寮(?)で目を覚ます乙骨(主人公)。
しぶしぶ起き上がるしぐさや、制服を手に取る動作から、登校に戸惑いを感じていることがわかる。
●テーマの提示
いじめを受ける乙骨。
乙骨にとりついた呪霊・里香が、いじめる同級生に危害を加える。
乙骨の「出てこないで里香ちゃん」の台詞で、「里香ちゃんという呪霊は乙骨の味方だが、乙骨は困っている」ことが提示される。
乙骨は呪いを学ぶ呪術高専へ。
里香の力をコントロールできず悩み、絶望する乙骨に、五条(教師)が語りかける。
「力の使い方を学べ」
「ひとりぼっちはさみしいだろう」
このふたつが、作品を通じたテーマとなる。
●セットアップ
乙骨、呪術高専への登校初日。
決して温かく迎え入れるわけではない同級生たち。
呪いを抱えた乙骨は、呪術師のなかでもかなり特殊な立ち位置。
主な舞台とともに、乙骨の「居場所のなさ」を示す。
●きっかけ
真希とともに実地訓練におもむく乙骨。
●悩みの時
乙骨と真希、小学校の呪霊に飲み込まれ、ピンチ。
●第一ターニングポイント
乙骨、里香を自分の意志で呼び出す。
小学校の呪霊を打ち倒し、「里香ちゃんの呪いをときます」と乙骨が宣言。
一歩進んだ目標の提示。
→夏油の影を見せることで、真の敵がいることを暗示
第2幕
●サブプロット
乙骨の呪いのコントロール方法として、五条が「刀」を使うことを提示。
訓練する1年生たち。
乙骨と3人の関係性の変化。
訓練による体術アクションとわちゃわちゃした雰囲気。
●お楽しみ
乙骨、棘とともに実戦へ。
『Save~』によると、「お楽しみ」とは、観客が期待するシーンや展開。
その作品らしさが出るセクションのこと。
あてはめて考えると、この作品らしい、「呪術を使ったバトル」が見られるセクション……かな?
●ミッド・ポイント
乙骨、里香の呪いを初めてコントロール。
棘との連携共闘。仲間との関係が生まれる。
『Save~』によると、ここで主人公は「絶不調」か「絶好調」になるが、後の展開でひっくり返されることになる。
ここは「絶好調」のパターン。
●迫り来る悪い奴ら
今までチラ見えしていた真の敵・夏油が姿を現す。
新興宗教の教祖としての夏油が描かれる。
夏油、乙骨たちの前に来て「百鬼夜行」を宣言。
●すべてを失って
真希はじめ、同級生がやられる。
『Save~』では、ここに「死の気配」を忍ばせるとよい、と書いてある。
真希のやられっぷりはこれに相当するのでは……?
●心の暗闇
乙骨の怒り。しかし、圧倒的な夏油にどう戦うのか?
●第二ターニング・ポイント
乙骨覚醒。
乙骨が自分を肯定するために夏油を倒すことが必要と、目的が一本道ではっきりつながる。
「純愛」による、里香の力の解放。
第3幕
●フィナーレ
里香の解呪。里香の呪いとはなんであったのかの謎解き。
乙骨の物語とは別に走っていた「サブ」の物語、夏油と五条の関係にもひとつの結論が示される。
●ファイナル・イメージ
真希に呼ばれ、駆けていく乙骨(うろ覚え)。
居場所がなかった、生きていたくなかった乙骨の問題が解決。
しかも、最初は拒絶で始まった真希とのやりとりでそれが示される(たしか……)。
→おまけ。アフリカにいる乙骨。
食事を楽しんでいる姿から、オープニングとは真逆の状態にあることがわかる。
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乙骨の心情の変化をポイントに、きれいに物語が展開。
お手本みたいだと思う。
原作も同様の展開で、この短期集中連載が人気で、本編連載につながったのもうなずける。
「行動」で語られるキャラの性格や状態
ほかにうまいなと思ったのは、キャラの性格や、状態の説明。
夏油の危なさは、新興宗教の寺での金持ちに対する仕打ちで端的に語られる。
物語ラスト、乙骨は夏油とのバトルのなか、急激に覚醒する。
が、新たに身につけた「呪言」によるたった一言で、「あ、この人、けっこうヤバい」とわかる。
「正統派のヒーローではない」ところが、『呪術廻戦』らしい。
すぐれたエンタメによくあることだが、世界観の説明も見事だ。
「呪いとは」「呪術師とは」と、序盤で五条が一気に解説するのだが、それが五条の「土壇場まで説明しない」「周囲を強引に巻き込む」「表面的には軽薄にふるまう」キャラの説明にもなっている。
何よりコメディ要素を付加。
蛇足1 たったひとつ、作品を見ていて疑問だったこと
何もかもすんなり楽しめる作品だが、ひとつだけ鑑賞中に疑問だったシーンがある。
「高専で真希を打倒した夏油が、真希の血を踏む」ところだ。
夏油は「呪力を持たない人間」を「猿」と呼んで軽蔑しており、真希にも侮蔑的な態度を取っている。
夏油は「猿」としゃべった後は除菌・消臭スプレーを使っており、また、夏油と思想を同じくする女性が、「猿」の血を避ける描写もある。
なぜ、夏油はあえて真希の血を踏んだのだろう。
よくよく考えてみると、夏油はその後、「すぐれた呪術師のために、呪術師が体を張った」ことにもんんんのすごく感動しているので、
「強大な呪力を持った乙骨を守ろうとした」行為により、真希のことを認めたのだろうか。
蛇足2 『劇場版 呪術廻戦0』の「動き」の気持ちよさ
前述したが、アニメ版『呪術廻戦』を語る上で、アクションシーンのすごさは欠かせない。
アニメ業界は人手不足、低待遇などが問題になりつつも、近年のアニメはクオリティのインフレを起こしている。
劇場版はいうまでもなく、「TVアニメのクオリティじゃないでしょ」と言いたくなる作品も、1年に何本かは現れる。
ようするに、「絵」や「動き」がめっちゃすごい作品が増えている。
『呪術廻戦』のTVシリーズもそんな一作だった。
これだけすごいものを次々見せられていると、「超絶作画映像にも、いろいろあるなあ」と感想を抱く。
「うちならこんなアングルも描けちゃうんですよ!」と実験的なものもあれば、生理的に気持ちいいものもある。
湯浅政明監督(『映像研には手を出すな!』など)作品は、わたしにとって、後者の代表格だ。
監督がTwitterにアップしている短い動画からも、それが伝わってくる。
— 湯浅政明 (@masaakiyuasa) 2021年12月28日
で、『劇場版 呪術廻戦0』の作画は、もちろんリッチ。
「原作のバトルを、制作陣が考える一番いい手法で生き生きと、楽しみながら描いている」感じがして、それが気持ちよかった。
夏油が玉藻の前を出すところは、黒い闇にアートアニメを思わせる絵で「呪い」の姿が描かれている。
そういった変化球も、作品世界をしっかり支えている。
しかし、「絵」が動くのって、なんでこんなに楽しいんだろう。
パラパラ漫画だって楽しい。
「アニメーション」の語源はラテン語で霊魂を意味する「アニマ」にあり、という説がある。
ひとの手による、動かないはずのものが、命をもって動く。
現実ならざる動きをする。
『劇場版 呪術廻戦0』は、その喜びをストレートに堪能できる作品でもあった。
以上、手放しで「たのしーい!」と思える作品は、やっぱり作りがしっかりしてんなあ、という話でした。
写真は入場者特典の「0.5巻」。
あきらめていたので、もらえてとてもうれしかったです!
*1:映画館出たところで、「少年漫画の王道だったねー」「ジャンプって感じ!」と話している人たちがいたけれど、わたしは『呪術廻戦』に関しては、エンタメの王道は踏まえていても、少年漫画の王道とは違う、というかズラしがかなり入れられていて、そこが作品固有の魅力になっているんじゃないかな、と思っている