新婚旅行の行き先はハワイ島だった。
当地でのオプショナルツアーを調べるなかで、「どうしても参加したい」と思ったのが、
マウナ・ケア山から日の出を見る、というものだった。
日の出なら、そりゃ東京湾でも見られるけれど。
なんとなく、4200メートルのマウナ・ケア山から見る朝日、というとありがたい感じがするではないか。
当日、ホテルにツアー会社の迎えが来るのは、午前3時だった。
山頂はとにかく寒いと聞く。
半袖Tシャツの下にヒートテックを重ね、厚手の靴下を履き、
リュックにはネックウォーマーやアウトドア用のフリースを用意した。
がらんとしたロビーは南国らしい気温で、
これから本当に冬装備がいるのかしらと、半信半疑になった。
大きなワゴン車に揺られて、山へと向かう。
ツアーは満員御礼らしく、座席に空きはない。
参加者は、20代の若者が多かった。
ツアーの流れはこうだ。
まずは、標高2800メートル付近のオニヅカ・ビジター・インフォメーション・センターで降車。
そこで星空観測を行う。
これは、さらに高所へ向かうための、身体の慣らしを兼ねている。
1時間ほどで車に戻り、山頂を目指し、日の出を待つ。
マウナ・ケアは4200メートルもあるが、山頂まで車で登ることができるのだ。
その後は、再びオニヅカ・ビジター・インフォメーション・センターに戻り、
軽い朝食を食べ、高山植物の観察など。
終了後は、参加者を各ホテルに送り届けて解散。
さて、車はオニヅカ・ビジター・インフォメーション・センターに到着。
ここで、スキーウェアとおぼしきモコモコのズボンと上着、ニット帽、手袋が
スタッフから配られ、身に着ける。
気温は、それらを着てホッとできるぐらいには低い。
温かい飲み物が振る舞われ、参加者は、思い思い散らばって夜空を見上げる。
星空は圧倒的だった。
日本でも、山間部へ行ったときに何度か❝降るような星空❞は見たけれど、
星の明るさ、近さ、数がまったく違う。
星があちこちでべっかべかとまたたくさまは、加工された写真を見ているようだった。
ただし、煙るような天の川や星の微妙な色合いなどのディティールが、
これはまったき現実なのだと教えてくれる。
また、星座についての考えも変わった。
それまでは、夜空にさそりやら白鳥やらを見出すなんて、
昔の人はずいぶん強引だな~と思っていたのだが、
たしかに明るい星をつなげていくと、
「さ、さそりだ!」
「十字架だ!」
「大三角形だ!」
となるのであった。
スタッフにより設置された望遠鏡で土星の輪を観察したり、
これまたスタッフが三脚を立てて、星空をバックに写真を撮影をしてくれたりする。
自分のカメラではまったく撮影できなかったので、これはありがたかった。
車に戻ると、ペットボトルの水が配られ、高山病予防のための諸注意をされる。
ペットボトルの水を、少しずつ飲むこと。それと、絶対に寝ないこと。
「寝たら、100%高山病になります」。
おしゃべりが奨励され、車内のあちこちで、ひそひそと会話がかわされる。
車は、ゆっくり、ゆっくりと山を登る。
人工の光が皆無に近いため、周りの様子はよく見えない。
前日までは風が強く、ツアーの催行が中止されていただけあって、
山頂はニット帽も飛ばされんばかりの強風だった。
そして、寒い。
まだ暗い。
「寒い寒い」と体をやたらめったら動かしながら、参加者は日の出を待つ。
やがて、少しずつ明るくなり、眼下には、柔らかく厚い、綿のような雲が広がっていることがわかった。
そして、その向こうに、ついに朝日が昇る。
その瞬間、涙が出た。
それは感動したからとも違う。生理的なものとも違う。
身体の奥底からわきあがる何かがあり、それが自然と涙になったのだった。
生理的な、衝動に限りなく近い、身体性の強い感動なのだと思う。
次第にまぶしくなる曙光のなか、夫を見ると、同じように涙をこぼしていた。
太陽が昇る。
夜が明ける。
世界に光が戻る。
毎日繰り返されるこの現象には、何か原始的なパワーがある。
人間の本能にうったえかける、何かがある。
そのことを端的な形で教えてくれたのが、
このマウナ・ケアのサンライズツアーだった。
新しいはじまりを記念する新婚旅行で、この体験ができてよかった。
あたりが明るく、すこしずつ暖かくなるなか、
夫と手袋ごしに手をつなぎながら、そう思ったのだった。
というわけで、今週のお題「今年見に行ってよかったもの」は、マウナ・ケア山頂からの日の出。
(山頂には、各国の天文観測台がある。日本のすばるや、NASAのものもあった)
(日の出を見た後、下山。オニヅカ・ビジター・インフォメーションセンター付近で高山植物の観察。これは「銀剣草」というもので、大変熱に弱く、人間がふれるとしおれてしまうとのことだった)
余談。富士山にも登ったことがあるのだが、気象条件が悪く、ご来光は拝めなかった。富士山で日の出を見られたら、自分の足で登っていることもあり、何かまた、違った感想をもつのだろう。と同時に、自然のものは見られるかどうかが運に左右されるため(このツアーも前日までは強風のため、山頂に登れなかった)、今回、日の出が見られて本当によかったと思う。
もうひとつ、同様のツアーに参加される方に向けて。
私が参加したのは2月。山頂は本当に寒かったです。ただ、日本も冬なので、家を出たときの服装がそのまま活用できました。自前の服装は、アウトドア用レインウエアの上・アウトドア用フリース・ヒートテック上下・半袖Tシャツ・厚手の靴下・ジーンズ・ネックウォーマー。ここに、ツアーで借りたスキーウェア上下とホッカイロを加えました。できれば、アウトドア用レインウエアの上ではなく、ダウンを持って行ったらよかったです。中肉中背の人なら、スキーウエアの下にダウンを重ねられると思われます(大柄でガタイのよい男性は、難しそうでした)。ニット帽はツアーの中でもレンタルがある組とない組がありました。また、手袋は自前だったか、借りられたか記憶が曖昧です。自前で持って行く場合、風を通さない、なるべくしっかりとしたものをおすすめします。指先が冷えて、カメラのシャッターを押すのも大変です。寒がりの方は、万全に対策をしたほうが、ツアーをより楽しめると思います。「オニヅカ~」のトイレで着替えらえるので、ヒートテックなどは最初から着て行かなくても、途中で下に着ることができます。