夫が配置がえになり、帰宅時間が早い日ができた。
私もここ何日かは仕事が落ち着き、時間に余裕がある。
引っ越して台所も広くなったので、副菜をよぶんに1、2品作ったりしている。
そろそろ帰ると、夫からの連絡。
料理を仕上げにかかっていると、鍵を回す音がする。
「ただいま」と言う夫の手には、話題のスイーツ店の袋がぶら下がっている。
ターミナル駅で、よく行列ができている店だ。
取引先に立ち寄ったとき、偶然、人がいないタイミングで買えたという。
今日の献立は、豚の生姜焼き、もちろんキャベツの千切りを添えて。
レタスとトマトのサラダ、長芋ときゅうりの酢漬け、冷奴、しいたけとえのき、油揚げのお吸い物。
簡単だけれど、仕事が忙しいときは、私の場合、この程度でも難しい。
生姜焼きは、夫の好物だ。
「外までいいにおいがしていたよ」
とウキウキしている。
スイーツは冷蔵庫に入れて、食卓を囲む。
見なくてもよいテレビをつけておく。
ぼんやり見たり、ツッコミを入れたり。
お昼が遅かったので、生姜焼きは重いかと思ったけれど、
思ったよりおいしくてペロリと食べてしまう。
吸い物も、出汁と油揚げ、きのこ類の旨みが混然一体となっていて、ホッとする味わいだ。
そのうち、ニュース番組がはじまる。
この時間に食べ終わっているなんてねえ、などと言いながらダラダラする。
お腹が落ち着いたら、夫はコーヒー、私はお茶を淹れてお待ちかねのスイーツタイムだ。
クリスピーな何かがトッピングされた、シュークリームとエクレアをかけ合わせたようなお菓子。
こういう、食べ慣れたものをひとひねり、ふたひねりしたものは、安心感があって受け入れやすい。
ふたりでサクサク、あっという間に食べてしまう。
今日は白いTシャツを着ていたので、割烹着をまとって炊事をし、そのままだ。
その格好で食事をとって、
ちゃぶ台によりかかって他愛のない話をして、
バラエティとニュースを見て、
夫が買ってきた手土産に舌鼓を打つ。
部下が、取引先がと、今日、会社であった出来事を、夫からあれこれ聞いたりする。
これってなんだかすごく、サラリーマンの妻って感じがする。
眠る前には、湯船にお風呂を張って、ゆっくり浸かる。
引っ越してうれしいことのひとつが、お風呂が広くなったことだ。
雑誌なんて持ち込んで、優雅なバスタイムをキメちゃったりする。
そのうちまた、お互い忙しくなって、「サラリーマンの妻って感じ」なんて言っていられなくなるだろう。
だいたい、サラリーマンの妻って何だ。
あれかな、昭和かな。
お父さんはナイターを応援できるぐらいの時間に帰ってこられて、
たまには子どもの喜ぶお土産を持って帰ってきて。
お母さんが作った料理をみんなで食べる、みたいな。
日常だけど、ふだんとは違う、異質な感じ。
ふたりで暮らしていると、たまにこういうことがあって面白いと思う。
そういえば、フィクションやイラストで描かれた
昭和のお父さんといえば、よく酔っぱらって、
十字に紐がかけられた折詰を持っていた。
あの中には、何が入っていたんだろう。
すごくおいしそうなものな気がする。
そんなことをあわあわと考えながら、平凡で特別な、
非日常というほどでもないけれど、いつもとちょっと違う、
そんな平日が終わっていった。