平凡

平凡

写真の中の犬

大雨の中、楽しそうに歩く犬。2026年6月

 

犬を迎えた当初、食い入るように見ていたものがある。うちに来る前に犬の世話をしてくれていた、預かりボランティア・AさんのSNSである。犬がAさんの家にいた当時の投稿を、何度も何度も見ていた。

 

見ていた理由はけっしてポジティブなものではなかった。

 

犬を飼った経験がない犬初心者のわたしは自信がなく、「犬は、ほんとうにうちに来てよかったのか?」と常に思っていた。

 

たびたびここでも書いているように、うちの犬は元保護犬で、怖がりではある。しかし、「怖がりの犬界」では最弱(?)、軽度な怖がりだ。

保護犬に知識がある人なら、「ビビりの犬」と聞けば、散歩に出ることをいやがったり、あるいは散歩の間じゅうおびえたりといった状態を想像するのではないかと思う。また、犬が人間自体に馴れておらず、ともに暮らす人間が怖いケースもある。

うちの犬は散歩は好きだし、静かな場所なら楽しく歩くことができる。また、人間のことは基本的に好きだ。

だから、犬経験値が豊富な人であれば、散歩中に犬がおびえても、もっと早く持ち直すことができるのではないか……とわたしは考えていた……というか、いまもそれはそうだろうと思っている。

そして抱えている問題がそのていどでマンションで飼えるサイズのおとなの保護犬は、引く手あまただ。うちの犬だって、わたしたちの申し込みが一歩遅れていたら、いくらでも条件のよい家庭から声がかかっただろう。

 

犬のしつけ本の定番フレーズとして、「犬をほかの犬と比べるのはやめましょう」がある。わたしはうちの犬をほかの犬と比べることはないが、自分とほかの飼い主、あるいは存在しない「うちの犬を迎えたかもしれない、理想の飼い主」とは比べまくっていた。

 

Aさんは預かりボランティアとして経験豊かな人だった。人馴れしていない犬、散歩を怖がる犬、あるいはいたずらが激しい犬など、さまざまな犬を迎え、家庭へと送り出してきたはずだ。そんな人と自分を比べても意味がないのは、頭ではわかっている。

しかも、まだまだ犬はうちにもわたしたちにも慣れていない。でも、ついついAさんの過去のSNS投稿を見てしまう。なんて楽しそうに歩いているんだろう、遊んでいるんだろう、溌剌としているんだろう。

 

写真や動画をスクロールさせながら表情以外に注視していたのは、犬の足だった。うちの犬は過去に大きなケガをして、手術をしている。里親募集の告知には、「日常生活には支障ありません」と書いてあったし、実際にそうだった。小高い石垣にぴょんと乗って降りるのも平気そうだし、公園でおもちゃを追って駆けまわるときの足取りは暴れ馬のようで力強い。

 

暴れ馬のように力強く走るので、ブレブレである

それでもわたしをぎょっとさせたのは、手術をした後ろ足を持ち上げたときの軽さだった。

 

世間では誤解されがちだが、まともな動物保護団体はいい加減なことを決して言わない。彼らが怖いのは動物が譲渡されないことではない。「思っていたのと違う」と動物が返還され、ふたたび動物の環境が変わることだ(それと脱走)。だから譲渡に不都合なこと、覚悟が求められることも含め、犬のことは知る限りぜんぶを伝えてくれる。すくなくとも我々はそのように信用できる保護団体から犬を譲り受けた。

ボランティアが「生活に支障はありません」といえば本気でそう思っているし、将来のリスクがあればその場で伝えられるだろう。

もちろん予測不能な未来が訪れる可能性があるが、それは考えてもしかたがない、そういうレベルのものと団体は判断しているということだ。

 

だいじょうぶ、なのだと思う。でも、我々は犬初心者だ。リードの引き方や足の拭き方が至らなくて、この子の足は悪くなってしまうのではないか……。

 

我ながら、心配性が過ぎるのではないかと思う。しかし、お迎え当初は、犬いとしさのあまりに不安になりがちだった。

それは当然といえよう。散歩に先だって出発していた犬と夫に合流したとき。犬はわたしに気づくとわたしをまっすぐに見て、草むらを跳びこえて一目散に駆けてきた――しかもそれはまだ、犬との暮らしのお試し期間、トライアル中のことだった。

そんな動物とはじめて身近に接して、少々おかしくならないほうがおかしかった。

 

これは単にはしゃいでいる写真だが、こんな感じで人間目がけて一直線に走ってくるわけで……耐えられます? 

なので、Aさんがアップした犬が歩く動画や遊ぶ動画を何度も何度も見た。そのうえで、散歩中は犬の歩き方をガン見した。後ろ足の動きは動画と同じだろうか。ケガの影響で毛が生えない箇所があるが、それがいつのまにか増えてはいないだろうか。ストレスでハゲるかもしれないし……。


そういった行動をしなくなったのは、いつからだろう。理由はいくつかあって、ひとつは、単純に不安をあおられすぎて苦しくなったから。もうひとつは、犬が「正式にうちの子」となった正式譲渡のときの経験だ。

 

トライアル開始からひと月が経っていよいよ正式譲渡となった日、Aさんが我が家を訪問してくれた。そのときに撮ってくれた写真には、「えっ、うちの子、こんな表情をしていたの?」というものがいくつかあった。もちろんAさんが来て犬がはしゃいでいたのもあるが、わたしの認識とはかなりの差があった。要するに、写真の中の犬は、わたしが思うよりずっといい表情をしていた。

Aさんをはじめ、たいていの動物保護団体の預かりボランティアは、預かっている犬の里親募集も担う。SNSにアップする写真は募集の要だ。わたしたちも、SNSにアップされた写真を見て、「かわいいね」とお見合いを申し込んだ。だから、犬のいい表情をとらえる技術も高いのではないか……。我々はそんな表情を見逃しているだけで、実際の犬は、思うよりもいい顔をしているのではないか。

 

また、その日、Aさんは、「犬と遊べない」と悩む我々のために、近所の公園でデモンストレーションをしてくれた。公園では、犬が苦手とする子どもが、これまた犬が苦手とするボール遊びをしていた。しかし、Aさんといっしょであれば、犬は公園にもずんずん入っていく。我々夫婦と犬だけなら、間違えなく公園に入ることすらかなわないだろう。

そして、その差を生んでいるのは、犬とAさんとの関係のように見えた。犬は、Aさんのことを「楽しく、ワクワクすることをしてくれる人間」だと思っている。遊びを期待して、目を輝かせてAさんを見上げている。だから、子どもは目に入らない。

 

そのときに感じたのは劣等感ではなかった。

「我々と犬がもっと仲良くなったときの関係性は、Aさんとは違うものなんだろうな」。

わたしはAさんではないし、頭の中にいる「いたかもしれない、うちの犬の理想の飼い主」でもない。わたしたちはこの犬を迎えることを決めて、そのときに犬の運命は決まってしまった。わたしたちはわたしたち以外にはなれない。だったらわたしたちなりにがんばるしかないのではないか――。要するに腹が決まったのだった。

 

それでもしばらくは、AさんのSNSの過去投稿を開いて、「う~ん、でも、うちではこんなディズニーアニメに出てくる動物みたいな笑顔はしなくないか」と思うこともあったが、それもだんだん減っていった。自分のカメラロールに犬のかわいい姿が増えて行って、それを見て夫婦できゃいきゃい言うのに忙しくなっていったからだ。

 

足に関しては、時間が経過するにつれ、それほど急に調子が悪くなることはないらしいぞとわかってきた。結果、「万が一の可能性はあるが、それはほかの病気などと同じ。考えてもしかたのないあまたの悪い可能性のひとつ」におさまった。

 

そして、いま。わたしは絵と短文で犬のことをつづる本を制作している。そのために、「うちの犬ってどんなだったかな」と、久々にAさんの過去投稿をさかのぼった。

 

そこには、昔の、犬がいた。いまよりすこし細くて、首まわりの毛もいまほどふさふさはしていない。保健所から引き出されたばかりで不安そうな顔をして、辣腕の預かりボランティアによって爆速で心を開き、楽しく遊んではいるけれど、表情はまだまだかたい。そのことが、いまならわかる。うちに出発する直前になると、遊んでいるときの笑顔は明るさが増す。

 

つづけて自分のカメラロールをさかのぼってみる。最初に家に来た日。不信。表情が暗い。体を丸めている。

 

Aさんが帰った直後に撮った写真

 

こちらも家に来たばかりの日。隣に座る夫になでられている。なんて心細そうなんだ……

 

わたしたちに馴れるのははやく、トライアル中から早くもくっついていたけれど、やはり表情はいまよりかたい。

 

トライアル開始直後の散歩。いまはこんな表情も歩き方もしない

 

迎えて一年、お散歩の調子は右肩あがりになっているように感じることもあれば、調子が激烈に悪くなったこともあった。

でも、どんな時期でも写真の犬の表情はどんどん柔らかく、明るくなっている。「あれ? この時期、お散歩のことで悩んでいたけどな?」と思う。どんなときも、かわいく楽しい瞬間があったのだ。写真の中の犬は、それを教えてくれる。

 

春先、公園でロープを振り回して遊んだあとの帰り道、犬がわたしたちを笑ったような表情で見上げた一枚。「楽しかったですね」と言っているようで、胸がいっぱいになった。

 

その写真。こんな顔で見上げられたらキュンどころでは済まないのであった

 

なーんだ、と、わたしは思った。犬、うちに慣れてんじゃん。うちでリラックスしてるじゃん。夫婦ふたりのキッチンでカメラロールをさかのぼって見ていると、よくわからないいとおしさがこみあげてきて、ふたりとも涙ぐんでしまった。

 

リビングに戻ると、犬が厳しい顔をして、全身で不満を表明している。「犬をほうっておいてどういうつもり」と言わんばかり。それでも夫婦でちやほやしていると機嫌はあっという間に直り、水を飲んで見せてくれる。

家に来たばかりのころは、犬はソファからほとんど動かず水もあまり飲まなかった。心配した我々は、水を飲んだときには「えらーい!」と大げさにほめた。そのかいあってか、いまでも犬はみんなが揃うと得意そうに水を飲むのだった。

 

夫がソファに座ると、犬はすかさずぴったりくっついて、からだを伸ばして眠る。ひとりのときはからだを丸めるけれど、人間とくっつくとからだを伸ばしてふしゅーふしゅーと寝息をたてる。

犬の寝顔はいとおしい

 

さまざまな環境の変化を乗り越え、がんばって、犬はいま、ここにいる。

なんてしんみりしていると、犬は突然起き上がり、元気いっぱい興奮して、ソファに敷いたタオルを噛みはじめる。家族が揃うと、うれしすぎてこのように興奮することがあるのだ。「ふがーッ! ふがッ! シュー!」っと生者に噛みつかんとするゾンビのような音を立て、歯を見せてタオルを噛もうとする犬 vs 「やめろーッ! ゾンビ犬! タオルを噛むな!」と止める人間。

 

こうなるともう写真なんて撮れない。カメラロールに残らない現実の犬はなんともさわがしく犬くさく、タオルを噛むときはご丁寧に繊維にそって歯を立てて解体しようとするし、それを止めるとベロベロなめてくるので手がベタベタになる。

人間と犬とでわちゃわちゃしたり、過去の時間を愛でてみたり。まあまた悩んだりすることもあるだろうけれど、おおむね愉快に――犬との時間は進んでいくのであった。

 

***

というわけで、9月5日のZINEフェス動物で、短文+絵で犬の来歴に思いを馳せる新刊「君はどこから来たの?」(仮)を出す予定です!

完成した暁にはよろしくお願いいたします!

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その夢は、もう見ない(犬と暮らしていて見た夢の話)

2026年の春先に撮影した眠る犬。犬がスヤスヤと眠っているとなんとも平和な気持ちになる

 

一年前。犬と暮らしはじめたばかりのころ、よく見た夢がある。

 

夢うつつの中、ベッドに犬が眠っている。ああ、犬がいる、あったかいなと思う。そのぬくもりはひどくリアルだが、うちは犬と人とで寝床をわけているのでこれは明らかに現実ではない。

隣には夫が眠っている。それは現実のとおりだが、夢の中で、夫は大きな犬の姿をしている。

夢の視点は自分自身なので、自分の姿は見えない。でも、その夢の中では、わたしも犬の姿をしていたと思う。

 

朝方に眠りが浅くなると決まって見るそれは妙にリアルで、夢というより「自分の無意識下の認識が立ち現れたもの」の色が強いように感じられた。夢は多かれ少なかれそういうものだとは思うが……。

 

そんな夢を繰り返し見ながら、犬を迎えて二か月ほどたった夏のある日、わたしは出張に出た。たまたま夫が休みを取れたため、心置きなく一泊二日できたのであるが――。仕事が終わり、ホテルの部屋にひとりになったときに驚いたのは、強烈に犬のにおいがかぎたくなったことだった。犬に会いたい、は基本としてある。しかし、その欲求には「においをかぐ」がセットになっていた。

 

わたしは「いとしい存在」をにおいとセットで認識したことがない。歌の歌詞に「あなたの香り」などの表現が出てくれば、「ああそういう人もいるのかもしれない。ロマンチックだね(わたしには縁がない話だが)」と思うだけだった。体臭であれ、香水であれ、煙草であれ、そうだった。

しかし、ホテルの一室でわたしをもだえさせたのは、犬と夫に会いたい、犬を抱きしめたい、犬のにおいに包まれたいという欲求だった。

 

驚愕しながら、わたしは思った。

「わたしたちは、『群れ』になってしまった」

 

わたしたちは夫婦と犬で一セットの「群れ」で、「群れ」の関係性や愛着を強烈にパッケージングしているのが、犬のにおいのように思われた。

 

同時に、あの夢のことを思い出した。あれはわたしたちが「群れ」になったことを象徴する夢だったのではないか。人間と犬、異種族がひとつの「群れ」を形成した。人間が犬になっているのは、わかりやすく「ひとつになった」感覚が表れていたのではないか。

 

犬と暮らすと「作り変えられてしまった」と感じることが多い。

 

たとえば、犬と暮らす前のわたしたちは出不精だった。いまでもコンビニへ行くのさえめんどうくさい。それが、犬の散歩は毎日、抵抗なく行く。「抵抗なく」というか、眠ったり食べたりするのと同じような感覚で、「一日、最低でも二回、犬と散歩に行く」が選択肢なくプリセットされてしまった。

雨でも雪でも散歩に行く。もちろんめんどうだ。「こんな寒い雨の中、散歩行くの~。かんべんしてよ~」と泣き言をこぼす。雨を避けようと雨雲レーダーとにらめっこすることもしょっちゅうだ。でも、「行かない」という選択肢は存在しない。常に「行く・行く・行く」。

そして「めんどうだよ~」の底の底、散歩についての一番基礎にある感情は、「犬と散歩に行けて楽しい」だ。

 

人と犬とで、朝50分ほど、夜40分ほど歩く(季節や犬のコンディションによって変動あり)。当然、健康的になる。お腹がすくので朝から食事をしっかりとる。結果、朝昼晩と食べるようになる。

 

犬を迎えてから、わたしたちの暮らしは劇的に変わった。しかも、その暮らしは新たなもののはずなのに、「十年前からそうでしたけど」という顔で鎮座している。

わたしたちはもう、犬と暮らす前の自分たちを思い出せない。

むかしは犬の散歩、行ってなかったんですか? えっ? そのころ、何してたんですか、一体……。

 

そういった感覚を一言で表すなら、「作り変えられてしまった」になる。

 

いまのわたしは、もう夫や自分が犬になっている夢は見ない。ふつうに人間社会であれこれしている夢ばかり見る。犬による「作り変え」が完了してしまったからかもしれない。

 

わたしたちは人間で、この社会は人間中心にできていて、そんな中で犬と暮らしている。だから、犬にとってはリーダー的な存在であらねばならない、と思っている。また、犬は群れには自分以外のトップがいたほうが安心する動物のようにも思う。

わたしたちはどうしようもなく人間で、人間社会の中で犬を守っていかなければならない。また、犬が犬として楽しく暮らすためには、その線引きは重要だとも考えている。しかし、犬とわたしたちとでひとつの「群れ」を形成しているのもたしかなのだ。

 

巨大な犬であるわたしたち夫婦と犬が眠っていた夢の中、寝床はあたたかかった。

あれはたぶん「群れ」の温度なのだろう。そんなことを思いながら、今日も「群れ」の一員の人間として糧を得るために働き、散歩に出、犬のにおいがする家で眠っている。

 

今週のお題「最近見た夢」

光とともに暮らしてる(保護犬を迎えて1年がたちました)

2026年3月、春の散歩にワクワクする犬

 

一年前の、ゴールデンウィークのまんなか。その日は快晴だった。

 

「トライアルは一カ月です。『正式にうちの子に』となった場合は、正式譲渡までに市区町村へ『犬を飼い始めました』という届け出や、マイクロチップの登録者変更をしてください。ほかに聞きたいことは?」

 

てきぱきとした説明はどこか機械的だった。キッチンのテーブルを挟んで向かい合った女性に対し、わたしは思った。「この人、こんなに表情がなかったっけな」。

 

我々の足元では黒っぽい犬がおすわりをし、「まだですか?」といわんばかりに上目づかいでちらちらと女性――動物保護団体のボランティア・Aさんを見上げている。

 

推定三歳のおとなの雑種犬。性別は雌。今日から我々は、この犬と暮らす。そのために、いままで犬とともに暮らし、世話をしてくれたAさんがうちに連れてきてくれたのだ。とはいえ、いきなり「うちのこ」になるわけではなく、まずは一カ月のお試し生活、つまりトライアルがはじまる。

 

我が家にはじめてやってきたときの犬。ブログに書いてあるトライアル開始時ではなく、2025年4月の環境調査時のもの。現在はキッチンにもタイルカーペットを敷いているので、「素の床」が新鮮

 

Aさんに会ったのはその日で三回目だった。一回目は犬とのお見合い、二回目は犬をトライアルに出す前にある「環境調査」というステップ(実質、家に合わせた脱走防止対策を具体的に教えてもらうための訪問)、そしてこのトライアル開始の日。

 

お見合いの日のことを、ぼんやりと思い出す。

我々は犬と暮らしたことがない犬初心者で、お見合い中のお試し散歩では、好奇心を抑えきれぬ犬に引っ張られ、自転車にびっくりした犬に引っ張られ、終始犬に振り回されてばかりだった。

そのたびにAさんに「こんなに引っ張られていいんですか~」となかば泣きつき、「自由にさせるときと人間について歩かせるとき、緩急ですよ」などと、アドバイスをもらっていた。

質問も初歩的なものばかりだったと思う。散歩の回数・距離や食事の内容から、「犬って家にいる間は何をしているんですか?」といったことまで。

 

見るからに“犬慣れ”していない我々と小一時間話しただけなのに、Aさんは笑顔で「こちらとしては、トライアルに進んでもいいと思っています。よく話し合って連絡をください」と言い切った。笑顔で、きっぱりと。

Aさんの印象は、表情豊かで、小柄ながら快活なエネルギーが溢れていて頼りがいと決断力があり、犬が「ついていきます!」となるのがわかるような女性。

 

でも、トライアル開始の日のAさんは何かが違っていた。丁寧で、感じがいい。なのに、何か精彩を欠いている。目の奥に感情がないというか……。

 

そんな疑問をぬぐい切れないまま、テーブルの下にいる犬に目をやる。戸惑いながら上目づかいにきょろきょろと見回すから、白目がときどき見える。ディズニーアニメに出てくる犬みたいだ。かわいい。

 

そうこうしているうちに説明が終わり、我々も聞きたいことがあるような、ないような状態になる。何しろはじめて犬と暮らすのだ。何がわからないかもわからない。

というより何より、

――この後、Aさんが帰ったら、わたしたちと犬だけになるの??? えっ、マジでほんとに? ひとつ屋根の下? 何が起こるの? 

 

という、「マジマジほんとに?」がずっと頭を駆け巡る。

 

説明がひと通り終わり、Aさんと犬をリビングへと導くと、犬はソファにぴょんと乗って、体を丸めた。

「お聞きしていた通りですねえ」

「用意してよかった」

と、我々夫婦はそれを満足気に眺めた。何しろソファは届いたばかり。Aさんから、「この子はソファが好きなので、ソファがあるお家なら、たぶんその上にずっといると思いますよ」と聞いたので、「それならば、犬が落ち着ける場所を」と購入したものだった。

使用感のないソファの真ん中にちんまりと身を置く犬を、夫がなでた。

 

「じゃあ、わたしはここで」

Aさんが立ち上がり、つられて立ち上がろうとした夫を手で制した。

「サッと帰ったほうがいいと思うので、ここで」

わたしだけがAさんを玄関に送る。玄関にはいまや、しっかりとしたペットゲートが取り付けられている。保護犬を迎えるにあたり、脱走防止のために購入したものだ。

そのペットゲートを開けると、Aさんは三和土に降りて、「ここまでで、大丈夫ですから」とやはり手で制した。

ペットゲートと玄関扉を同時に開けては、脱走防止の意味がないからだ。

「外へ出るときは必ずペットゲートを閉めてから、玄関を開けること」

「家に帰ったときは、必ず玄関扉を閉めてから、ペットゲートを開けること」

保護団体から支給された「脱走防止チェックポイント」にも書いてあることだ。

そして、ペットゲートと玄関扉の間の面積は狭い。だから、Aさんはペットゲートが閉まるのを確認すると自分で玄関扉を開けて外へ出た。

 

玄関扉の向こうの共用廊下には、明るい日差しがさしこんでいた。

Aさんは「●●を、よろしくお願いします」と、犬の名を呼んで深く一礼した。

顔を上げたAさんを見て、わたしは今日の違和感の理由がわかった気がした。

 

――ああ、そうか。この人は蓋をしていたんだ。この瞬間のために。

 

シェルターを持たない動物保護団体が多い日本において、Aさんのようないわゆる「預かりボランティア」は重要な存在だ。飼育放棄、ブリーダーの崩壊、あるいは保健所からの引き出し。さまざまな理由で保護され、バックボーンも個性もさまざまな犬を預かり、人間とのふれあいや家庭での暮らしに慣らしていく。

来歴不明な保護犬は多い。うちの犬も、保健所に保護される前の犬生についてはわからない。適切な飼育がなされていないケースもある。人にすぐ甘え、お手、おかわりをこなす犬もいれば、散歩が怖くてできない犬、人がとにかく怖い犬もいる。預かりボランティアたちは「何々が怖い」すらわからない段階から犬を預かり、犬が安心できる環境を作り、体調を見ながら適切なフードを与え、できることを増やす。生半可な愛ではないと思う。彼ら彼女らは、その生半可ではない愛を犬に注ぐ。いつか手放すために。

そんなことが、犬のみならず猫や他の動物保護の現場でも行われている。

 

わたしにはぜんぜんわからない、と思う。

 

動物の一生が人間によって左右されることを、預かりボランティアたちはよく知っている。そんな人たちが、「この人を」と思う相手を見定め、手を放す。そしてまた、新たな動物を迎える。

その繰り返しにより、日本各地で(あるいは似たシステムを持つ世界中の国々で)多くの動物たちが、「ずっとのおうち」へと旅立っていく。

 

「一匹でも幸せな動物を増やす」という信念のもと、動物たちに愛情と手間と時間を惜しみなく注ぎ、その動物の幸せのためと信じて手を放す。

 

きっとそういうことなのだろう、と頭では理解できる。でも、自分にはとうていできない。どうやったらそれを成し遂げられるのかも想像がつかない。だから、「わからない」と思う。

しかしそれはとにかく尊いことで、うちの犬はその尊さの中で、わたしたちのもとへやって来た。

 

今日はAさんにとって、そういう日だった。「別れ」「託す」をおそらくは理解しないであろう犬のために、あえてスッと姿を消す。新しい家族に愛しい存在を託す、別れの日。

 

犬を迎えるまでの数年、SNSであまた見てきたボランティアたちの「今日はトライアル開始の日! がんばって!」「しあわせになって!」の投稿。

数年通っていた保護猫カフェで立ち会った猫たちの「卒業」の日、スタッフの表情にあったもの。

 

それはいつも他人事だったけれど――。わたしにもそれを託される時がきたのだ。玄関扉の向こうのAさんを見たとき、それがはっきりとわかった。

 

2025年5月、トライアル開始日の犬。たしかAさんが帰ってすぐに撮影したもの。ソファにちんまりして警戒している

 

とはいえ、「託された!」と言えるほど我々に頼りがいがあったわけではなく、それからもいろいろなことがあった。トライアル中はほぼ毎日Aさんに相談の長文LINEを送ったし、正式譲渡となった後も散歩は一進一退。だいぶ慣れてきたと思った冬、寒さが本格的になると犬がやたらと外を歩くのを怖がるようになり、散歩の最短距離・時間を更新したこともあった。

 

2025年5月、家にきたばかりの頃の散歩中。表情に緊張が見られる

 

2026年2月撮影。冬、散歩を怖がるようになり、「怖い」と「寒い」がまじりあっているのではないか……とAmazon3000円のなんちゃってダウンコートでは寒いのでは……と、北欧製のコートを買い直したことも。雪は好きらしく、この日はごきげんだった

 

それでも最近では、家族揃っての散歩では犬はおおはしゃぎ。とくに広い公園まで出向く日曜日は周辺の雑木林をワクワクと歩く。

 

2026年3月、春の日差しのなかワクワクと若草を踏んで歩く犬

 

人が来ない広場でおもちゃがわりのタオルを投げてやると犬はそれをくわえて振り回し、跳ねまわる。

 

2026年4月、公園ですごい顔をして跳ね回る犬

 

また、夫が帰宅すると、犬は一目散に玄関へと駆けて出迎えるようになった。途中、ドアが閉まっていると、わたしのほうへクイッと顔を向け、早く開けろと催促する。

 

人間は好きな子で、人には早く慣れてくれた。これは2025年5月、トライアル初期の写真。掃除する夫をお手伝い(?)している

 

お気に入りのソファで寝ているときに人間がくっつくと、「ふしゅー」とため息のような息をもらしてぐっすりと眠る。そういえば最初、この「ふしゅー」を不満のため息だと思っていた。いまはこれが満ち足りたときのサインだと、わたしたちは知っている。

いまでもソファはお気に入りの場所。トライアル開始日とはリラックス度合が違う! 2026年3月撮影

いま、キーボードを打つわたしの足元で眠っている犬の前足に、そっとふれる。肉球が大きく、あたたかい。

 

仕事をしていると、足元に来ることも多い。見上げてくる表情がたまらなくかわいい。2026年1月撮影

Aさんだけでなく、犬を最初に保護してくれた人、保健所の人……。犬は多くの人の愛に包まれて、うちへ来た。わたしたちはその光とともに暮らしている。トライアル開始の日、Aさんが玄関で見せた表情は、いまはもう輪郭がおぼろげだ。しかし眠る犬のぬくもりは、その輪郭の内側にあったものをたしかに思い出させてくれる。

 

五月の日差しがまぶしい。濃密な最初の一年が過ぎた。

また一年、わたしたちはこの光とともに、暮らしていく。

 

雨の散歩は大の得意で、るんるんと歩く。レインコートがよく似合う。2025年10月撮影

 

あざとすぎる! やめろ! かわいすぎるだろ! と悲鳴があがるポーズ。2025年8月撮影。本当にかわいい……

タオルくわえておおはしゃぎ! 2026年5月撮影。うちにきてくれてありがとう



今までの犬関連の記事は、「犬」カテゴリーにまとまっています

犬 カテゴリーの記事一覧 - 平凡

 

おすすめは……

 

お散歩が多少落ち着いてきたときに書いた「近くて遠い場所」

近くて遠い場所 - 平凡

 

お迎えから半年記念の記事。今回と違い、感じたことを箇条書きに列挙しています。写真多め

hei-bon.hatenablog.com

 

犬と暦

犬と暮らしていると、お天気や自然のほか、案外、人間社会の暦をダイナミックに体感する。

 

年の瀬の散歩中の一枚

 

クリスマスイブが過ぎたころから車の交通量は減り、一昨日から朝も昼も住宅街に人影は少なく、昨日は窓掃除や洗車をする人をよく見かけ、今日、30日はついに公園でボール遊びをする子どもたちもいなくなった。

 

今よりずっと、犬が散歩にナーバスだった夏、人も車も自転車も少ない、お盆の1週間がとてもありがたかったことを思い出す。

ことに犬がパニックになりやすい夜は恩恵が大きく、「静かだねえ、お盆なんだよ」と話しかけながら歩いていた。

 

夏の夜の、蒸し暑い中で虫の声がする静かさと、空気が冷えて乾いて何より明るい冬の朝の静かさ。

 

人の社会の営みなのに、どちらも「恵み」と感じる不思議。

 

青くて薄い、冬の午前の空、どこか遠い日差し。犬が霜柱を踏む。冬の音はひそやかで、親密な響きがある。

 

明日の大晦日、そして元日。犬と歩く街はどんなだろうか。静かだろうか。案外、にぎやかだろうか。

犬と過ごすはじめての暦を、わたしたちはひと匙の不安とともに楽しんでいる。

 

※Misskey.ioに投稿したものを再編集のうえ、投稿

保護犬と暮らして半年の記録

この記事はいぬすきーアドベントカレンダー15日目の記事です
https://adventar.org/calendars/11502

 

***

 

犬を迎えてからおよそ半年が経った。


うちの犬は保護犬で、お試し生活であるトライアル開始から7か月、正式譲渡から6か月。

保護犬であることを中心に、お迎え前後の流れや、現時点でのインプレッションのようなものを残しておこうと思う。

これまでブログにちょこちょこと書いていた情報もあるとは思うが、ご容赦ください。

 

 

 

基本情報

外見や年齢など
黒柴に似た柄の、体重12キロの雑種犬。女の子。3歳。

かわいい。飼い主のポジションから散歩中の犬のいい写真を撮るのはかなり難しいが、奇跡的に成功した一枚



性格は人が好きで、ビビり。いろんな音にびっくりしがち。その一方、わりと天真爛漫でポジティブだと思う。はっちゃけるととても元気。

ケガをしているところを愛護センターに保護され、保護団体へ。

そのため来歴は不明だが、人間のことは「みんななんとなく自分のことが好きで、オヤツぐらいはくれるだろう」と思っている節があるので、人間から怖い目にあわされたことはないと思われる。

 

どんな人間なのか?

中年夫婦2人。もともと猫が好きで、動物全般が好き。犬の飼育経験はなし。身近に飼っていた人もいない。2、3年ほど譲渡会などに足を運び、段階的に犬を知っていった。

 

犬の好きなこと:お散歩、食べること! でも、人間の食べ物を奪うほどの積極性はない。人にくっつくこと。定位置のソファでくっつくのがベスト。ロープ系のおもちゃを噛み噛みすること。外でタオルをゆわえたものをくわえてぶんぶん振り回すこと

無関心:ぬいぐるみタイプのおもちゃ。ダンスなど飼い主の奇行

嫌だな~:お留守番

嫌いというか怖い:車。突発的な音全般、複数人数の人間がしゃべりながら歩く、子どもの声、自転車が段差でたてるガタッという音、あと風の音。
あとなんだろう……動物病院は診察では怖がるが、処置が終わると獣医さんや看護師さんをペロッとなめるし、病院を出ると「なんだかんだ人間にかまわれたな~」みたいな顔をしているので、おそらく大嫌いというわけではないっぽいし……

トイレ:外派。というか外でしかしない。それゆえ、1日2回~の散歩はマスト

 

なぜ保護犬?

保護猫カフェに通っていたので、「保護動物がたくさんいて、次々に保護団体にやってくる」ことを知っていたこと。

どんな動物を迎えるにせよ、子どもでなくて大人でかまわないと思っていたこと。性格をだいたい把握したうえでお迎えできるので、むしろ大人のほうがよかった。雑種犬でもというか、できれば雑種がよかったこと。これは見た目の好みが大きい。

犬の場合、犬種による性格や気質の違いでもしつけの方向性や必要量運動量が変わってくるし、散歩をするので問題行動はときに対人問題に直結する。なので、犬種はもちろん、親犬の気質も含めて選ぶ人もいるのは知っているが、本犬の性格を把握しているボランティアさんから説明を受ければ問題ないかな……というスタンス。

 

うちに来ることが決まるまで

もともとチェックしていた保護団体の犬。預かりボランティア(保護犬の里親が見つかるまで自宅でその面倒をみるボランティア)さんのInstagramで里親募集しているのを見て、かわいい、賃貸の規約内のサイズ、うちでもお世話できるかも、かわいいと思ってお見合いを申し込んだ。公園でのお見合いとお試し散歩を経て、その日にトライアルが決定。

お見合い時に、「ものすごく運命を感じた」とか、「犬に認められた」といった手ごたえはなかった。ただ、かわいくて元気で、怖がりなのに好奇心旺盛なところがかわいいと思った。道行く中学生男子が「あ、かわいい~」と言ってくれたときは、「そうでしょう、そうでしょう」と思った。それぐらい。

 

お迎え準備から正式譲渡まで

犬の出身保護団体はお迎えまでに踏む段階や約束事は多めだと思うが、我々としてはいずれも納得できるものだった。


・トライアル開始前に、犬を連れての環境調査
犬に家をチラ見せしてちょっと慣れさせる&実質は脱走防止対策のアドバイス。トライアルまでにその対策を実施し、ボランティアさんに写真を送ることが求められる。

もともと保護猫のお迎えを考えていた我々にとって、脱走防止対策をするのは当然に思えたし、家に来て「100均で買えるワイヤーネットをこう組み合わせて~」と具体的にアドバイスをもらえるのはとても助かった。

動物保護団体は「脱走により、譲渡した動物がふたたび保護動物になったり、外でケガをする、命を落とすことがあってはならない」と考えている。なので、どこの保護団体であっても、基本的に「保護団体から動物を迎えるイコール、脱走対策を求められる」だと思う。

 

・トライアル開始
犬のお届けと同時に、脱走防止対策や飼育環境の最終確認。

 

・トライアル
基本は1か月。これは長めと複数の人から言われた。ひょっとしたら、お迎えの決意が固まればもっと短くてよかったのかもしれない。うちはもちろんお迎えの決意はあったが、犬と実際に暮らしながらいろいろ相談できる期間が1か月あるのはとても助かった。

 

・トライアル中

「トライアル中の報告」は団体との約束だが、そんな約束関係なく、相談したいことが毎日わんさわんさと出てくる。なので最初の10日ぐらいは「報告しよう!」なんて考えずとも、自然と毎日、800字ぐらいの相談LINEを送り付けることとなった。怖。

最初のほうの連絡を見ると、犬のお散歩相談の経緯説明で、「犬ちゃんが草むらをくんくんしたら、緑のちいさなアブラムシみたいなのが鼻についていて」など書いてあったりする。それはお散歩中のパニックには関係ないでしょ、といまは思うが、当時はとにかくヒントがほしかったのだった。また、「ガムをこんなに噛むんですけど大丈夫ですか!?」と動画付きで相談したりしていた。ガムは犬が噛むためのオヤツだよ……。

うちに来るまで犬のめんどうをみてくれていたボランティアさんは、そんなぐだぐだ相談に、毎回、励ましを添え、真摯に的確に答えてくださった。トライアル開始前から「全力でサポートします」と言ってくださって、実際にそうしてくださった。感謝しかない。

 

正式譲渡

ここでもボランティアの方が自宅訪問。犬の現状を見ながらアドバイスをもらえるので、これも大変助かった。うちの場合、ボランティアさんに時間の余裕があったため、みんなで近所の公園に出かけ、犬との遊び方を実演してもらった。また、お世話になったボランティアさんと犬の再会のようすも心温まるものだった。

 

その後

正式譲渡から半年後の近況報告、あとは周年の報告。わたしたちは、「犬ちゃんがこんなにかわいくって! 元気で! もうかわいくって!」と写真と動画つきで遠慮なく報告できる機会ととらえている。何より、うちの犬の幸せを願い、何かあれば相談に乗ってくれる人がこの世界にいる心強さがある。

 

保護犬、何が大変だったか?

 

正直いえば、犬と出会うまでがかなり大変だった。なかなか話がまとまらず、縁がなかったのだった。トライアルが決まったときは、「これでもうインスタを見てお迎え候補の犬を探すこともしなくていいし、気になった犬がいたとしてその保護団体が信用に足るかどうかを考えなくてもいいし、遠くの譲渡会に行かなくてもいい」とほっとした。

 

肝心の迎えてからの大変さは……。

保護犬といってもいろんな経緯で保護されたいろんな犬がいて、抱えている問題もさまざま。うちの犬は問題が少ないほうだと思う。

トイレは絶対外派ゆえに粗相はしない。体のどこをさわっても平気。攻撃性はない。怖がりだがかなり人なれしている。健康にも大きな問題はない。かわいい。

だからこそ、犬初心者のわたしたちにも譲渡してもらえた。

一点だけ問題となったのが、散歩。

うちの犬は車や自転車、子どもの声などいろんなものが怖い。恐怖が一定に達すると、腰を落としてジタジタする走りを見せ、なぜか「怖いもののほう」へ寄っていく。すなわち、車が怖い! と思ったら車道に向かって走る。なぜだ。

ただ、それでもお散歩は好きだし、静かな場所では楽しく歩くことができ、「待て」といえば待ってくれる。パニックになったときのリードの引きも、わたしでも制御できる程度。犬との暮らしに慣れた人であれば、2週間ぐらいでふつうにお散歩できるようになるのでは……と思うが、残念ながら我々は犬経験が皆無。

それがどう変わってきたか? は、この後の「犬のお散歩変化」に記そうと思う。

 

犬のお散歩変化

・トライアル中
うちにきてすぐのころから、朝の静かな時間帯は楽しそうだった。一方、夕方の散歩は車も自転車も人も怖いので、しょっちゅうパニックになり、無事に帰るのがやっと。

帰宅後から夜にかけて、犬がハァハァと口を開けて呼吸をするパンティングが出た。

 

とはいえ犬はパニック中でない限り、「待て」といえば待ってくれる。動物にコマンドが通じた経験がない人間にとってはこれは感動的で、「こんな犬慣れしていないボンクラのコマンドを聞いてくれる賢い犬に対し、自分たちは応えられていない」「お散歩で安心させてあげられない」と落ち込むこともしばしば。

が、うちの犬は人の感情に寄り添うタイプではなく、人間がめそめそしていても意に介することなく自分のペースでくっついたり寝たりしている。これには救われた。

 

お散歩初期のことを書いたブログ記事。

hei-bon.hatenablog.com

 

 

・正式譲渡(6月頭)

このころには、散歩ルートもバリエーションが増えていた。メインのお散歩場所となっている公園では、毎年夏祭りが開かれる。公園に行けなかったらどうしよう、夜まで人がいっぱいで犬が怖がったらどうしよう、散歩できないんじゃないか、夏祭りまでに回避できるようにしなきゃ……と、必死で増やしたのだった。

この頃、リードが「外れてる?」と思うぐらい軽く感じられる瞬間が出てきた。犬がリードを引かない瞬間が出てきたのだと思う。これには感動した。

 

・6月中旬

蒸し暑さが増し、たまに「水の中を歩いているのか?」という日も。散歩で歩ける距離がどんどんのびる……が、夜、散歩をしぶるケースが出てきた。「暑さでバテているのでは」と思い当たり、歩くペースを落とし、ルートを見直した。「犬は歩けば歩くほど喜ぶ」「中型犬なので、とにかくたくさん歩かなきゃ」という思い込みが糺された出来事だった。

このころ、雨の日の散歩中に家の鍵を落とし、探すために犬を引っ張り回してしまったこともあった。人間がパニックになり、さぞかし犬は怖かったと思う。申し訳ない。今は、めんどうでも家の鍵はお散歩バッグの奥に入れるなど、注意を払っている。

また、水に濡らして使う冷え冷えポンチョを購入。夏の散歩の必需品となった。

 

・6月下旬

ペースダウンしつつも、散歩ルートはそれでも増えた。そんなとき、奇跡のように涼しい1週間があり、「数年後になるのでは」と思っていた遠くの公園へ行けて感動。犬も公園を気に入ったもよう。

 

そのときのことを書いた記事がこちら。

hei-bon.hatenablog.com

 

・7月~8月

地獄の夏。
朝は5時に起きて太陽に追い立てられるように散歩。夜はアスファルトの熱を確認して19時以降から散歩開始。散歩の時間がギチギチに縛られるのも厳しかった。なんだろう、犬を外に絶対に連れていけない時間がある不安感……。

冷え冷えポンチョには保冷剤を入れるポケットがあり、保冷剤もマストとなる。冷え冷えポンチョの用意、人と犬の虫よけも必要で、お散歩準備がけっこうたいへん。散歩前後のさまざまな始末を酷暑の中でやるのもしんどい。

そして、夏までに顔見知りになった犬たちにほとんど会えなくなった。みんなそれぞれに散歩時間をズラしているし、たまに顔を合わせても、お互い太陽と暑さに追い立てられているので余裕がない。犬友といえる人がいないわたしでも、そんな孤独感が地味につらかった。

 

朝の散歩は家族が揃うため、ルンルンでわりと距離長めに歩くし、メンタル面ではそれほど問題がない。ただ、夜の散歩は途中で怖がることもあって不安定。暗い中での散歩が怖いのか? とも考えたが、夏は日が落ちてアスファルトが冷めてからでないととても散歩には行けないのでしかたがない。

そして、なんとなく犬を見ていると、暑さもメンタルに影響を与えるようだ。人間だって暑くてカリカリしたりぐったりしたりするもの、そうだよね、と思う。

 

・9月


す、涼しい! 残暑厳しいとはいえ、9月入ったら朝晩は涼しい。他の飼い主さんたちも余裕が違う。挨拶明るく、軽く世間話だってしちゃう……。

「そういえば、犬ちゃんは人間とアイコンタクトあんまりしないね」ということで、家で名前を呼び、目が合うと褒めたおすことをはじめたのはこのころだと思う。

散歩中もオヤツを使って外でのコマンド練習(外でもお座りはかなりできていはいたが)、アイコンタクトの練習をはじめる。


アイコンタクトができれば、パニックの原因になりそうなものがあれば、先んじて名前を呼ぶことで人間に注意をひきつけ、パニックを回避することができるらしい……道は遠そうだが気長にやっていくことに。

 

・10月

夏を乗り越え、夕方散歩は相変わらずいろんなものが怖くなるものの、そこそこ上手くいっていると思っていた。


が、休日の夕方の散歩、わたしが道路脇の段差に足を取られる→複数の家族連れが連続で歩いてくる→小型犬に攻撃的に吠えられるの三連コンボで犬がパニックになり、めちゃくちゃに走る。

家に帰って見てみると、脚にすこし血がにじんでいた。どこでどうなったのかわからないが、走っているうちにすりむいたのだと思う。動揺し、動物病院に電話して指示をあおぐ。アドバイスをもとに傷口を水で流し、様子見。幸い、そのまま傷はよくなっていった。

以後は「怖くなったらそのつど立ち止まって落ち着かせる」「パニックの連鎖を起こさせない」を徹底する。また、散歩時間を遅めにしてできるだけ刺激を避けるようにした。

一時期は順調だったのだが、その後、なぜかどうしても行きたがらない道が出てきて、近所の公園より先に行けなくなったこともあった。が、夜、無人の公園ではとても楽しそうに遊ぶようになったので、あまり気にしないことにした。「もう少し先の道にも行きたいな~」と誘いつつ、無理せず、とにかく楽しく安全な散歩を心掛ける。

 

・11月
いつの間にか、ふたたび公園の先の道に行けるようになった。

朝の散歩をうんと遅めにすれば、あったかいし、みんな出勤や登校した後なので通行人も少なくていいのでは……と試してみたこともある。実際には車が多く、また、どこかの学生が集団で歩いてきたので犬はコワコワになってしまい、抱っこするはめに……。犬の存在が感じられる抱っこはいとおしいが、いかんせん12キロあるので重い

 

・12月

散歩中、ちいさなことに動揺しなくなった。動揺しても、持ち直しが早い! 
あんなに嫌いだった自転車がたてる「ガタン!」という音もほぼ気にしないし、公園で子どもが遊んでいても、離れた場所なら気にせず歩けるようになった。リードの引きも少ない。

散歩中、余裕があるときはチラッと人間を見ることもあるし、名前を呼ぶと見てくれることもぼちぼち出てきた。散歩の帰り道には、「楽しかったね!」と飛びついてくることも増えた。

 

そして12月15日、横断歩道を渡っているとき、車が右折してきて犬がちょっと怖がったものの、夫が名前を呼んだら夫を見て……ちょっとうれしそうに跳ねて……持ち直した気が、する!!! 感動。

 

半年のその他の変化まとめ


・トライアル最初の5日ぐらい
今に至るまで定位置となったソファで、じっとして、何事かを考えていた。人がいるほうがストレスになるようだったので、適度にそっとする。散歩と食事以外、ソファから動かない。こんなに動かなくて大丈夫かと思うぐらい動かない。水はもっと飲んだ方がいいのでは……ということで、ときどき人間がソファの上にいる犬の口元に持っていってすすめて飲ませるお姫様状態。かわいい。


・トライアル最初の2週間ぐらい
人がくっつくと落ち着くようになってきた。基本的にソファの上以外は怖いようだったけれど、このころ、はじめてキッチンに来た! 夫婦ふたりでいるところに勇気を出してきてくれたもよう。

勇気を出して、キッチンにきてくれたときの写真(何回目かのとき)。夫の足にくっついている。かわいい~

 

夫が掃除しているとつき歩くなど、「ああ、なついてくれているなあ」という雰囲気が出てくる。かわいい。

トライアル期間中は家に慣れてもらえるように、犬が怖がることは全力排除。そのため、掃除は掃除機を使わず、すべてクイックルワイパーとコロコロでしていた。しかも犬は換毛期で毛が抜けまくる時期だった。ど根性!

おもちゃを買ってくるがまったくのらない。さまざまな方法で遊びに誘うも撃沈。

 

・正式譲渡

だいぶ慣れてくれた感じがある。ときどき、家の中で人間と軽く追いかけっこをする通称「トコトコドッグ遊び」ができるようになる。

 

が、正式譲渡直後に大きく体調を崩す。下痢と嘔吐が続き、あきらかに元気がなくなっていく。預かりボランティアさんに報告しつつ、連日の動物病院通い。服薬だけではなんともならず、点滴してもらい、3、4日ほどで回復。犬の体調不良のサインをキャッチする難しさを実感した。

 

また、ほぼ吠えたことのなかった犬が、この頃から共用廊下の気配に吠えるように。「犬のおうち!」というテリトリー意識が芽生えたのかもしれないが、ここは共同住宅だ。あの手この手で吠えさせないよう試行錯誤。

 

・夏前

散歩中、問題がない場所でロングリードにつけかえ、走り回って遊ぶことも。興奮すると斜面のある場所でも走り回り、中年の膝が試される……。

Amazonで1000円で5個ぐらいおもちゃが入ったセットを買ったところ、ロープ系のおもちゃを噛み噛みして破壊するのが好きだとわかる。

 

・いま
前述した散歩の変化と同時期に、外の気配にそれほど吠えなくなった。

 

その他エトセトラ


・犬はまっすぐ見つめてくる動物で、それがやばい。人と犬は目があうと双方に愛情ホルモンのオキシトシンが出るらしい。今もソファからこの文章を打っているわたしを見てくる。目が合う。やばい。

 

・犬は意外にムードを大切にする動物だと思った。遊ぶときは本気で誘わないとのってこないし。散歩前は、「犬ちゃんと散歩に行けてたのしいー!」という雰囲気を常に出すようにしている。まあ、「こんなかわいい犬と散歩に行けるのー!?」と毎回言っているのは本音だ。

 

・犬の犬くささは欠点ではなく、いとしさをパッケージングして愛着と強烈に結びつくアドバンテージ。出張に出たら、「犬に会いたい!」「犬のにおいをかぎたい!」と猛烈に思ってびっくりした。人間にもそんなこと思ったことないのに。

 

・犬は脱げない毛皮を着ているので、夏は大変……なのだが、異常気象のせいかなんなのか、冬を迎えた今、そんなにあたたかそうではない。要するに犬の毛皮は細かな調整ができないので、快適に過ごさせようと思ったら、春夏秋冬、気温には気を配る必要がある。うちの犬は一般的な、いわゆる「ダブルコート」なのだが、けっこう寒そう。なので散歩中はジャケットが欠かせない。「犬に服は必要ない」「夏は冷え冷え服とかいるらしいけど、冬はシングルコートの子以外は服はいらないでしょ~」と思っていた昔のわたしよ、グッバイ。それにしても犬の毛よ、仕事してくれ……。

 

・犬はミミズが大好き。いろんな意味で大好き……。

 

・犬はなんとなくさまざまなスーパーパワーを持っていると思っていたのだが、人間の膝に乗せたノートPCの角に頭をぶつけたり、夜の公園で男性が通るとなんとなく夫だと思っているのかな~というそぶりを見せたり、夫の帰宅時に警戒吠えすることもあり(足音で判断できるのでは……)、スーパーパワー……? と疑問符がついた。

 

・犬を迎えてから、「大人の保護犬はもらわれにくいっていうよね」と何回か言われたが、譲渡される側の感触としては、とんでもない。賃貸で飼えるサイズの中型雑種犬で、抱えている問題がそれほど深刻でない犬は、シニア入り口でも大人気だ。以前、お見合いした犬は8歳の雑種だったが、里親募集開始直後にうちを含めた複数家族から申し込みがあり、速攻で決まっていた(うちは選ばれなかった)

 

・テレビに動物が映るとときどき吠えることがある。鳴き声が入っていない映像でも吠えることがあるのには驚いた。なかでもクマには反応が激しく、警戒吠えというより戦闘吠えのような趣を出すちなみにパンダにも同じ吠え方をしたので、ちゃんとクマだとわかっているのだな……と感心した。ともあれ、ご近所迷惑になるので注意している。

あと、特撮に出てきたオオカミタイプの怪人にも吠えていた。かぶりものして二足歩行してるのに!?

 

で、保護犬どうですか?

保護犬といってもいろいろな子がいるので一概にはいえないが、大変なのはたぶん、ペットショップやブリーダーから迎えても同じなのではないだろうか。大変さのベクトルが違うだけで……と思う。子犬なら社会化や基本のしつけもゼロからになるし(※保護犬にも子犬はいます)。

ふつうに散歩しているように見える犬たちの「ふつう」にはそれぞれの家族の努力があって、それは犬がどこ出身かはあまり関係ないのではないか。

野犬として生きてきた子や、うちの犬の比ではない怖がりの子、とても繊細な子もいるのでほんとうになんともいえないのだが、募集記事に「はじめての人でも迎えやすい」と書かれているような子であれば。

ただし、うちはこの子がはじめて迎える犬なので、何もかもこの子がふつうになってしまっている部分も大きい。

 

そんなわけで、犬との暮らしは楽しい。犬はパワフルだ。迎えてすぐに生活を散歩中心に変え、心のど真ん中に位置を占め、わたしたちを家族というより群れにしてしまう。

もう犬がいなかったころどう暮らしていたか、思い出せない。

 

そして、もしも保護犬もいいなと思っている人がいたら、ぜひ譲渡会やシェルターをのぞいてみてほしいなと思っている。

犬との暮らしに必要だった、意外なものたち

「動物と暮らすと何かと物入りで、お金がかかる」。そういった一般論はよく耳にするし、実際に犬と暮らしてみそう思う。

 

犬を迎えてから買いそろえたものの中には、「犬と暮らすまでは、必要だと思いもしなかった品」も多かった。

そこで本日は、犬と暮らしてやっと3か月目を迎えた新米飼い主による、「ネットの『犬との暮らしにあったほうがいいもの』にはあまり出てこないけど、必要だったもの」をあげていこうと思う。

 

●温度湿度計

気温が上がってきた5月下旬。我々夫婦はある疑問に直面していた。

「で、いったいいつからクーラーを入れりゃいいの?」

「動物と暮らしてから、24時間エアコンは稼働させっぱなしだよ~」とはよく聞く。

もちろん我々も犬には快適な環境を用意するつもりだが、そのタイミングがわからない。

そんなある夜、犬のパンティング(ハァハァいうこと)が出た。トライアル期間中であり、犬も人間も必死な時期。しかも、犬は夜に不安定になりがちで、パンティングが出ることはしばしばあったので、最初は精神的なものだと思っていた(それはそれで心配なのだが)。しかし、その日はなかなか止まらなかった。

「ひょっとして、熱中症?」

人間にとってはそれほど暑い日とは思えなかったが、クーラーをつけて、ネットで見た情報をもとに、犬の首元やももに保冷剤をあてる。結局、その日のパンティングは熱中症ではなかったようで、それ以上の症状が出ることもなく、やがて犬はすやすやと眠りはじめ、次の日からの体調に変化はなかった。そのとき、遅まきながら気がついたのだ。

「何度からクーラーが必要だろうと、『今、室温が何度なのか』がわからんと話にならん!」

犬の寝息を聞きながら、その場で温湿度計を注文した。

そうして購入したタニタの温湿度計は、Amazonで1000円ほど。温度と湿度が数字で出るほか、人間基準ではあるが、「ジメジメ」「カイテキ」などの指標も出してくれる。

shop.tanita.co.jp

 

導入してみると、風が気持ちいいと思える日でも意外と気温が高かったり、「なんだかクーラーの効きが悪いような」と思うときは湿度が高かったり。体感はアテにならないと実感した。

熱中症が問題になる昨今、温度湿度計は人間だけの暮らしでもあったほうがいいのかもしれないと思った。

 

●蓋つきの密閉性が高いごみ箱

ここからは汚い話もあるので、抵抗がある方は飛ばしてほしい。

トイレ室内派でない限り、犬との散歩には糞の処理がつきものだ。

当初、我々はビニール袋にペーパーがついており、「家に帰ればペーパーにくるんだ糞をトイレに流せる!」とうたっている商品でその処理をするつもりでいた。

が、よほど硬い糞でないかぎり、小石がつく。葉がつく。とてもトイレに流せたものではない。そのうえ、犬は環境が変わったストレスか、糞の状態が不安定で柔らかめだ。

「地面につけずにキャッチする」という技があるようだが、初心者にそんな高度なことができるはずもない。

そこでごみ箱に捨てるわけだが、いくらビニール袋を重ねても、消臭袋を使っても、におう。うちは蓋つき・パッキンつきのごみ箱を使っているが、その開閉が、精神的に厳しい。

そこで、犬の糞処理袋専用のごみ箱を買うことにした。子どものおむつ処理などでも同様の悩みを抱えているご家族は多いので、調べるといくつか商品がある。

パッキンがついていて、捨て口が二重になっているごみ箱を買ったところ、QOLは向上、というか回復した。今では我が家になくてはならないものになっている。

【T-WORLD ゴミ箱 防臭ペット用ペール】

https://www.amazon.co.jp/dp/B0BSXC3WX4?ref=ppx_yo2ov_dt_b_fed_asin_title

 

●タオルケット

犬のお気に入りの場所、ソファーにかける用として。ソファーカバーより厚みがあって着脱しやすいので、捨てる予定だったシングル用のタオルケットを敷いたらこれがなかなかいい。しかし、犬は在宅時間のほとんどをここで過ごしているため、洗ってしまうと何も敷くものがない。そこで、Amazonで1枚ポチ。動物と暮らすと、こういうちょっとしたものが必要になるんだな~と実感した買い物だった。

 

●虫よけ、UVカットパーカー、ジャージ

犬との散歩は、蚊との戦いである。ことにうちの犬は草むら大好き、土大好き。つまり、犬のお気に入りの場所にはたいてい蚊が大量にいる。

そこでまず、犬の虫よけが必要になる。最初に首輪やリードにつるすタイプの虫よけを買ってみたが、いまいち効果が不明だ。そこで、「犬がなめても安心」と書いてある虫よけスプレーを買う。何気に高い。

人間もお散歩バッグに吊るすタイプの虫よけをつけていたが、そんなものではとうてい間に合わない。蚊に食われまくる。そうこうしているうちに、マダニを通じた感染症の話題も聞こえてくる。犬はもちろん、人間の虫よけも絶対に必要だ。肌にスプレーをしまくりたいのが本音だが、うちの犬はお散歩準備中はテンションが上がってベロベロ人間の手をなめる。そこで、服の上からでもOKなものを選んで使っている。

 

犬用には「レニーム」を。評判通り毛もツヤツヤになる。ディートなどが入っている一般的なメーカーの動物用虫よけと比較したことがないので、効き目はわからず。

flf-tokyo.com

 

人間用にはKINCHOの「プレシャワーDF ミスト プラスハーブ」を使っている。

www.kincho.co.jp

 

 

虫よけスプレーを買ったとはいえ、虫がいるところに突撃するので、長袖長ズボンは必須。しかし、この季節は気温も湿度もどんどん上がる……。そこで、風通しがよく、レビューに「着ている方が涼しく感じます」などとある機能的な長袖長ズボン、つまりUVカットパーカーやジャージが必要になる。

ついでにいうと、散歩中は犬が飛びついてくることもあるし(かわいい)、トライアル中はパニックで固まった犬を抱っこで帰らざるを得ないこともあった(重いがおとなしく抱っこされていてかわいい)。犬の散歩は服が汚れやすく、洗いやすく乾きやすいジャージはありがたいのだった。

今はUNIQLOのエアリズムUVカットパーカーとギアパンツを愛用中。

www.uniqlo.com

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●レインブーツ

レインブーツは必要だろうとは思っていた。なぜなら、犬の散歩は雨の日もするからだ。ただ、雨の日以外も活躍するとは思っていなかった。

ひとつには、草むらの虫対策として。わたしが持っているレインブーツはハイカットなので、足首、要するにズボンと靴下の境目も覆われて安心なのだ。

もうひとつは、草むらというものは案外濡れている。朝な夕なに露が宿り、雨上がりには、地面が乾いていても草はしっとり。そういうときも、レインブーツなら快適。

 

使っているのは、Amazonで見かけたこのレインブーツ。クッション性はないけれど、コロンとしてかわいいし脱ぎ履きしやすい。

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ただ、毎日レインブーツで散歩に出ていたところ、クッションが足りなかったようで、膝にきた。

SNSで「中敷を敷くのもいいですよ」と教えてもらったが、よさそうなものはまだ見つからない。今はとりあえず「朝露ぐらいなら気にしない」「足元の虫対策は虫よけスプレーで」といった対策を取って、雨でなければスニーカーで出かけている。

しかしながら、あらゆることにとまどっていたお散歩の初期に、レインブーツがあったおかげでどれほど心強かったことか!

たいした距離を歩いているわけではないのだが、「犬のペースを考え」「ゆっくりと歩き続ける」のは筋力のないわたしには堪えたようだ。当然、レインブーツとともに、「クッション性の高いスニーカー」もなくてはならないものになった。

 

●あまり明るくないヘッドライト

犬の散歩には、夜行くこともある。ことに夏は暑い。日が落ちて、路面の温度がある程度下がってからの出発となる。そういったときに必要となるのが、手元でコントロールできる照明だ。

うちの犬はくんくんするのが大好きで、それはすなわち地面や植物に口を近づけることでもある。あまりがっついているタイプではないものの、そういったときに万が一、路上に落ちているものを食べてしまわないか気をつけている。そこまで神経質にならなくてもいいのかもしれないが、まだ犬との暮らしに慣れない我々には、鼻先を照らすものが必要なのだ。

また、昼間は気づかなくても、街灯が少ない道もある。そういうときもなんらかの照明がほしい。

いずれにせよ、リードを持ちながらなので、ハンズフリーだとありがたい。

ここまで書いた内容であれば、ヘッドライトを首にかけることで一発解決だった。が……。

犬の散歩というのは、当然、犬がいっしょにいる。そこで気になるのが、LEDライトの光の強さ、鋭さだ。明るい光で車や自転車に自分の存在をアピールできるのはいいが、犬がふと振り返ったときに直視していたら……と、ある日、ふと心配になってしまった。人間が直視できないものを、犬が直視していいわけがないと思う。

こういう細かいことが気になるのは、うちの犬が夜の散歩でナーバスになり気味だからだろう。「犬が突然ドキドキしはじめてリードを引いたのは、光が目に入ってパニックになったのでは?」と考えたことがあり、そうするとひとつでも可能性を減らしたくなる。

そんなことを考えていたとき、家電量販店の店頭で試したヘッドライトが、なかなかよかった。覆いのプラスチックが不透明になっていて光がソフトで、ルーメン数もかなり低い製品がある。何よりAmazonの口コミをチェックしたところ、「そんなに明るくないですが、広範囲を照らせます」と書いてあったのも決め手となり、そのまま店頭で購入した。「そんなに明るくない。けど、それなりに照らせる」。これ、これだよ、わたしが求めていたのは――!

今はそのライトの覆いに半透明の養生テープを二重に貼り付け、犬が振り返っても目に入りにくく、コントロールしやすい手首に巻き付けている。

ただ、毎日使うと電池の消耗が意外と早く、数日で「ふつうに考えれば満足だが、犬の散歩には不安な光量」に落ちてしまう。エネループを導入するのはどうか、それともこれより前に買い、光が強すぎると使用を避けたUSB式充電ヘッドライトでも、養生テープ+手首巻きでなんとかなるのでははないか、と試行錯誤をしている。

光るベストやタスキなどもSNSで教えてもらい、交通安全目的では導入したい気持ちはあるが、足元や犬の口元まで照らせるのか……確信がもてない。

「犬のお散歩用リストライト」も商品として存在するのだが、目の安全については「犬が直接見ないようにしてください」と注意書きがあってヘッドライトとあまり変わらないようなので、今のところは「明るくないヘッドライト」でなんとかしようとしているところだ。

それにしても、自分がライトを買うときに「なるべく明るくないもの」を探すとは思わなかった。世の中にはいろんなニーズがあるものだ。

※けなしているようにも見えるので、具体的な商品は伏せます。単4電池式の、125~575ルーメンまで幅がある商品です。犬と暮らしていなくても、LEDヘッドライトを使いたいけれど、まぶしすぎてちょっと、という人にもおすすめかもしれない……。

※書いているうちに状況がかわり、「もう少し明るさがあってもいい」「手首につけておけば、犬が振り返ってもそれほど直接見ないのでは」となってきたので、Amazonで買ったUSB充電式のLEDライトに養生テープをつけて使っています。

 

●ペットカート

乳母車のようなあれ。なぜかわからないけれど、自分にはすごく縁遠いものだと思っていた。犬をお迎えしたら、病院などには元気なときは歩いて、元気がなければキャリーを使えばいいわけだし……と思っていたのだろう。

しかし、12キロという微妙なサイズの犬は、背負うタイプのキャリーに入るかどうか判断が難しいところ。そこで、背負うことはあきらめ、「絶対に入る」と確信がもてるクレートとキャリーバッグの中間ぐらいの品物を買ったものの、手で持ち運ぶのは現実的ではないサイズ。うちには車がないので、いざとなればこのクレートに入れてタクシー移動するつもりではある。が、それは最終手段。

犬はよほど体調が悪くない限りは、自力で歩いて病院に行けるし、おそらくうちの犬はキャリーよりも自力歩行のほうが負担が少ない。しかし、問題は夏である。病院が開いている時間は、アスファルトが熱くてとても外を歩かせられない。

そこでペットカートだ。

ペットショップで見ると驚くほど高いが、ネットだとそこそこ手に入れやすいお値段のものもあり、購入に踏み切った。

通院に使ったところ便利だったが、ペットカートにいくら保冷剤を敷き詰めようと、やはり真夏の真昼に犬を外に出したくないな……と思った。

それでもペットカートがあれば、夏場の昼間に犬がお腹をくだしても、木陰があり、土があり、肉球をつけられる公園までなんとか移動できるかもしれない。秋になれば、遠めの散歩にも出られるかもしれない。「ある」安心感は何物にもかえがたい。

 

●タイルカーペット

これは番外編。犬がいる家庭では必要とされていて、常識的なものだから「意外」ではないのだが……。タイルカーペットというかフローリング上の滑り止め対策が、これほど必要だとは思わなかった、という話。犬にもよるのかもしれないが、うちの犬の足はフローリングでは、めっちゃ滑る。犬自身も滑ることが気になるようで、タイルカーペットの上しか歩かない。

トライアル中、こんなこともあった。怖がりでリビング以外になかなか出てこられなかった犬が、勇気を出して人間がいるキッチンへ来た。夫婦で犬の到達を喜んだものの、こんなに早く犬が出てくるとは思っていなかった我々は、キッチンにはまだタイルカーペットを敷いていなかった。せっかく大いなる一歩を踏み出したのに、犬は足が滑るのが嫌だったのか、次の日からキッチンに入らなくなってしまった。急いでキッチンにもタイルカーペットを敷いたしたところ、犬がトコトコと入ってくるようになった……。

 

タイルカーペットについては、実は以前は「わざわざカーペットを敷くのかあ」と抵抗があったのだけど、踏み心地が意外といいし、何より犬の足を守ってくれるとあれば印象は変わる。そして、犬の体調不良時に汚れたとき、1枚ずつはがして洗えて汚れが取れやすかったので、これはいいものだなと思った。

滑り止めにはフローリングにワックスを塗る方法もあり、「きれいに剥がれます」という商品もあるのだけど、やはり賃貸では怖くてあきらめ、タイルカーペットに落ち着いたのだった。

 

●光る首輪

もうひとつ番外編。これもタイルカーペットと同じ。「あったらいいね」は知っていたけれど、実際に犬と暮らして「あったらいいねどころか、これがないと暗くなってからの散歩は絶対ムリ」と認識が変わったもの。

うちの犬は黒ベースなので、夜になるとほんとうに見えない。必需品です。

 

以上、けっこう物入りですね、犬に限らず、動物との暮らし……という話でした。

近くて遠い場所

夫が持つリードを強く引き、犬が駆けていく。

広い公園を囲む林は腐葉土の湿ったにおいに満ちており、雑草が生い茂る。

犬を追う形となった我々のスニーカーを履いた足は一歩ごとに沈み込み、草がジャージのすねに当たる。

きっと犬も同じだろう。肉球にやわらかい土を感じ、草に顔をくすぐられているはずだ。

そのすべてが犬を興奮させるらしく、目を輝かせながらずんずんと林を進んでいく。

やがて視界が開けて、遊歩道に行き当たる。そのさらに向こうにはフェンスに囲まれたスペースがあり、犬たちのさまざまな声が聞こえる。

「ドッグランだ……」

「来ちゃった」

地面をふんふんと夢中でかぐ犬の鼻先に危険なものがないか注意しつつ、我々は感無量の心地でその光景を眺めたのだった。

 

同じ公園の、同じドッグランを、ぼんやり眺めていたことがある。

三年前のゴールデンウィークのことだった。

犬と暮らすことを考えはじめたころで、犬は憧れであり、未知のものだった。「犬と暮らしたいね」と話しながらも、そのイメージは具体的なものにはならず、責任をもって動物を飼える年齢のリミットは着々と迫っていた。夕暮れに沈むドッグランを見ながら、そんな焦りが胸をじりじりとこがしていた。

そのときのことは、以前、ブログ記事に書いた。

hei-bon.hatenablog.com

 

それから紆余曲折あって、三年後のゴールデンウィークに犬が我が家にやってきた。三年前に抱いていた、「我々が犬を飼えるのだろうか」という疑問が解消されたわけではない。真剣に考えれば考えるほど、不安になる。しかし、我々はどうしても動物と暮らしたくて、チャンスを得たとき、それをエイヤッと踏み越えた。

 

先ほどリンクを貼った記事には、こんなことを書いた。

ドッグランを見ながらそう言い合う我々は、その上澄みの下にある飼い主さんと犬の日々の暮らし、しつけ、努力を知らない。

要はドッグランで自由に遊ぶ犬の背後には、しつけや飼い主との信頼関係などの積み重ねがあり、それは見えない、という話だ。不安を踏み越えて、我々もその「上澄みの下」を模索する者となった。

 

「上澄みの下」は、思ったよりも正解がない。たとえば――。林に来たからといって、犬がリードを引くままにするのはよくないのではないか。いやいや、ここまで興奮する場所にもなかなか連れてこられないし……でももう少しメリハリをつけるべき? といった具合に、日々、迷いはとどまることを知らない。

 

それでも、犬を迎える前の我々が知らなかったこともある。そのひとつが、犬も人も「慣れ」という名の成長をする、ということだ。

 

家に来たばかりころ、犬はとくに交通量の多い道が苦手だった。そのため、人間の足でも「ちょっと遠い散歩」になり、道中大きな交差点を渡らなければならないこの公園に来るのは、冬以降になるのではと思われた。

しかし、散歩を繰り返すうち、犬も人もだんだん慣れてくる。といっても、犬が車や自転車が行きかう道が平気になったわけではない。苦手は苦手であまり変わらない。

 

どこへ行くにも通らねばならないバス通りだって、今もそれなりに緊張感はある。が、立ち止まらずに歩けるようになった。それ以外にも交通量が多い道はあるが、何度か通るうちにリードを引き引きであっても犬は歩けるようになり、人間も犬の動揺に動じなくなって、犬が落ち着くのが早くなった。

それは「克服」というより互いの「慣れ」で、そうしたものも十分に成長であることを、犬との暮らしを通じて知った。

 

苦手な道もなんとか通れるようになると、行動範囲が広がってくる。その先に、犬が好きな静かな道や緑が多い公園がある。

 

いろいろなルートに挑戦するうち、「はじめて」に戸惑い、ドキドキしがちな犬だが、新しい挑戦も苦痛なだけではないことも伝わってくる。車がたくさん通る道は怖い。はじめての道ならもっと怖い。パニックになる。でも、新しいにおいがする。それが犬の刺激になっている。それがことばでなく、走り方から、往路はともかく復路でにおいを楽しむ様子から伝わってくる。

 

だから、人間もなるべくしっかりと頼もしくいたいと思う。犬の様子に動じず、犬が安心して横について歩けるように。犬が新しい世界に少しでもたくさん触れられるように。

何よりも、犬の苦手がどのように表出するかは人間次第なのだ。ビビりの犬はビビりだ。しかし、何にどこまでビビるかは、人間がどこまで頼もしくいられるか、信頼関係を築けるかによる。これも、犬と暮らす中で我々が知ったことだった。

 

そのようにすこしずついっしょに歩ける範囲と距離が広く長くなり、ある日思った。

「あれ? これ、あの大きな公園に行けるんじゃない?」

そうして、六月末から続いていた猛暑の谷間にやってきた僥倖としかいえない涼しい朝に、わたしたちはついに公園に到達した。

 

三年前と同じドッグラン前のベンチに腰かける。三年前と違うのは、足元に犬がいること。そして、時間帯が夕方ではなく、早朝であること。

お座りの姿勢で休む犬をなでたり水をすすめたりしながら、走り回る犬たちを見る。うちの子も、いつかあんなふうに走れるのだろうか。ドッグランは柵がしっかりしていて、「ノーリードOK」とされているものの、まだリードを外すのは怖い。それでも、草むらを駆ける姿や、近所の公園で会う犬を遊びに誘う姿を見ていると、きっといい刺激になるだろうとも思う。何より犬はいま、推定3歳だ。若い時代を思いきり楽しませてやりたい。

 

無理かも。いいや、きっといつかは……。

 

近くて遠かったこの公園にたどり着くまでに、わたしたちは学んだ。「犬はこれをできない」と思うことはよくない。犬はきっと、犬という種ができることならたいていできる。ただ、それには人間が相応に成長し、学ぶことが必要なのだ。

 

足元で犬がそわそわしはじめる。草と土の気配があるところへ行きたがっている。

「行こうか」

犬をひとなでして、わたしたちは歩きはじめる。木々の向こうでは、太陽が天高く昇ろうとしている。

 

というわけで、今週のお題「遠出」に寄せて、近くて遠かった近所の公園への“遠出”を書きました。