今週のお題に寄せて書いたのですが、お題期間が終わったので、公開してお炊き上げするものです。
というわけで、今回の記事は、タイトル通り。
本じゃないけど、最近ってわけじゃないものが多いけど、Web小説でおもしろいなーと思ったものを備忘録がわりに書き出してみます。
一般文芸に近いテイストのものが中心です。
わたしは無名作品を掘り起こす、いわゆる“スコッパー”ではないので、有名な方多めかもです。
Web小説といってもいろいろあるんですぜ~ってことで。
紹介するのは「カクヨム」掲載作品ばかりですが、はてなとUIが似ているので比較的読みやすいと思います。
- 『煙になって消えたい。』尾八原ジュージさん
- 『ツインツイストドライブトライブ! 卓球ダブルス青春殺伐高校男児バチバチ炎獄血風劇』雨蕗空何さん
- 『あなたの矢の速度』都市と自意識さん
- 『狐降る夕、君を想ふ』夢見里 龍さん
- 『宮廷画家と征服王』つるよしのさん
- ***番外編***
『煙になって消えたい。』
尾八原ジュージさん
煙になって消えたい。 - 煙になって消えたい。(尾八原ジュージ) - カクヨム
短編。6500文字。
幼馴染の男性二人による、ほの暗いロードムービー。そこはかとなくただれていく感じがたまらない。
作者は短編と言えばこの人、という地位を築いている書き手さん。
筆が速くて多作で、独自の世界があっておもしろい作品をたくさん発表しています。
なかでもわたしはめちゃくちゃこの短編が好き。
年に何回か、ふっと思い出すんですよね。
『ツインツイストドライブトライブ! 卓球ダブルス青春殺伐高校男児バチバチ炎獄血風劇』雨蕗空何さん
ツインツイストドライブトライブ! 卓球ダブルス青春殺伐高校男児バチバチ炎獄血風劇(雨蕗空何(あまぶき・くうか)) - カクヨム
こちらは長編。トンデモなのにめっちゃ熱いスポ根ものです。
タイトルやキャッチにピンときたら1話を読んでみてください。
わたしは同じ作者さんの前作の「なえみやねこねこ大騒動!」も大好き。
王道少年漫画ノリとギャグが入りまじった作風で、「熱血もトンチキも全部真面目にやるからおもしろい」を体現しています。*1
『あなたの矢の速度』都市と自意識さん
13歳の少女が、団地に長年住んでいるエルフと会う話。
5万字なので中編かな?
日常と非日常の混ぜ方がすごく魅力的。
てらいない描写だからこそ、悼み、記憶、歴史などが伝わってくる内容。
『狐降る夕、君を想ふ』夢見里 龍さん
短編。7000字。
とにかく美しい短編です。
書き方のクセやリズムはみな違っても、「文体」とまでいえるものを持っている書き手さんはなかなかいない。
さらに、「文体が内容に奉仕している」、つまり文体が物語のムードを盛り上げている書き手さんはさらに少ないと思っています。
おもしろい、胸を打つ物語であるためには、必ずしも「文体が内容に奉仕している」必要はないんですよね。
夢見里さんは「文体が内容に奉仕している」なあと思います。
紹介した短編も、モチーフ自体は一般的であっても、この方が書くから美しく唯一無二。
「狐」が降るシーンの描写の美しさは圧巻なので、ぜひ読んでほしい……!
夢見里さんはネットにも小説を上げているものの、賞に応募し続けていたガチ公募勢の方のもよう。
なぜ過去形かと言いますと、昨年、電撃小説大賞の最終選考になり、その作品『死者殺しのメメント・モリア』が書籍化し、デビューされたからなのでした。
異なるベクトルで「文体が内容に奉仕している!」と思ったのは、アニメ化された『スーパーカブ』(トネ コーケンさん)。
乾いた筆致と主人公の乾いた内面がものすごくマッチしていて、だからこそスーパーカブによって彼女の世界が拓かれていくのがみずみずしい……。
アニメは音の少なさと映像でこの文体と世界観を再現していて、これまたすごいと思いました。
書籍化されていますが、Web版はカクヨムで読めますので、ぜひ。
『宮廷画家と征服王』
つるよしのさん
宮廷画家が、征服王から「ムサシノ」を描けと命じられ……。
3700字の短編なので、ぜひ読んでほしい。
ネタバレなので明言を避けますが、とあるテンプレのあっと驚く変奏曲。
征服する側の孤独、される側の心の機微、短い物語に見え隠れする宮廷画家とギルバートのブロマンス的な絆……。
それらをこの作者さんならではのみっしりとした描写で描き切っています。
カクヨムで開催される「角川武蔵野文学賞」の、「ライトノベル部門大賞受賞作品」に輝いた作品(21年度)。
なんで武蔵野文学賞なんてものがあるかというと、「カクヨム」は武蔵野に新社屋を構えたKADOKAWAのサービスだからですね。
***番外編***
『同志少女よ、敵を撃て』逢坂冬馬さんインタビュー
【㊗本屋大賞】「デビュー前夜」Vol.1 『同志少女よ、敵を撃て』逢坂冬馬インタビュー(カクヨム運営公式) - カクヨム
『同志少女よ、敵を撃て』の逢坂さんは早川書房の新人賞を狙うガチ投稿勢だったそう。
賞への投稿は孤独な作業なので、ここ数年はWeb小説投稿サイトを使って、展開の良しあしをみていた……という話が語られていておもしろいです。
『同志少女よ、敵を撃て』も、一時期カクヨムにアップして、PVを通して読者の反応を見ていたそう。
(投稿前に非公開にし、賞に投稿しての受賞なので、「Web小説発」というわけではありません)
賞への投稿でのデビューと、Web小説からの書籍化は、求められるものも目指すものもまったく別ベクトル。
でも、こんなハイブリッドな投稿サイトの使い方もあるんだな~と思いました。
以前も紹介しましたが……
『きちんと学びたい人のための小説の書き方講座』フィルムアート社
きちんと学びたい人のための小説の書き方講座(フィルムアート社) - カクヨム
『映画を書くためにあなたがしなくてはならないこと シド・フィールドの脚本術』や
『SAVE THE CATの法則 本当に売れる脚本術』『感情類語辞典』など、創作に興味がある人なら一度は聞いたことのある名著を出版しているフィルムアート社。
同社が自社本から抜粋して、物語やキャラクターの作り方を解説する連載。
この連載自体勉強になりますし、読んでいるうちに自分のスタイル合う本、知りたいことが書いてある本も見えてくるので、創作系の本を買うときのガイドにもなってくれます。
いかがでしたでしょうか。
Web小説の何が大変かって、好みの作品に出会うことですよね。
大量に読んでいる方は、宝探し感覚で楽しんでいる方も多い気がします。
ピンとくるものがあったら、秋の夜長にぜひぜひ読んでみてください~!
*1:
ここからは書き手さんについてなので、注釈で。雨蕗さんは2年以上、長編をずーっと定期的にアップして、きちっと完結させているんです。3日に1回ぐらい1エピソードをアップして、一作完結しても間をおかず次作を発表。書きたいことも、書くためのエンジンも、書くことへの意思も楽しさも、何もかも搭載している書き手さん。また、どの作品もキャッチがログライン(一行で作品の内容と魅力が伝わるようなもの)になっていて、そのあたりも作り込んでいる感じがあります。