今日も今日とてライター話です。
主に雑誌でライティングなどしております平凡と申します。春の足音と夜間のマジな冷え込みに、脳がバグり気味です。
本日のテーマは、「インタビュー&取材前に下調べするか否か」。たまにライター、記者界隈で話題に上がるやつですね。
答えはタイトル通り。下調べはします。するに決まってます。
この話題になると、近しい同業者はだいたい、「するに決まってんだろおおお」って感じで怒り気味になります。わたしもなぜか「うおおおお!」ってなります。
なんでだろ。「そんな失礼なことできるか!」って気持ちがあるのかもしれません。
調べないで丸腰で行く人ってそんなにいるのかな? と思うものの、今日は「下調べが必要な理由」(わたしにとって)など述べていこうと思います。
- 下調べが必要な理由その1「わかりやすさの追求」
- 下調べが必要な理由その2「礼を失しない」
- 下調べが必要な理由その3「つまらない質問をしない」
- だからって下調べしたことを前提に聞かない
- 余談:下調べは命を救う
下調べが必要な理由その1「わかりやすさの追求」
第一は、読者にわかりやすい記事を書くためです。
下調べをしない派の理由として、「何も知らない読者の目線に合わせたいから」があるようです。
が、いざ記事を書くとなると、読者目線でわからないことを「くまなく」掘り下げねばなりません。
そのために、自分自身の理解は、「読者より一歩か半歩先」に行くことが必要です。
何も知らないままに取材に突入すると、聞き取り内容に穴が出る可能性が高いです。
下調べが必要な理由その2「礼を失しない」
たぶん、同業者やわたしが、「下調べ、するに決まってんだろおおお」となるのはここですよね。
取材やインタビューというのは、こちらから声をかけて、時間をいただいているわけです。
謝礼やギャランティをお支払いしていても、それはビジネスだから。それがメインの目的で取材やインタビューを受けてくれる、というパターンはほぼないと思います。
では、なぜ貴重な時間を割いてくれるか。理由はおおむね「そのことについて多くの人に知ってほしいから」。厚意と熱意が大きいです。
それに応えるためには、「わたしはあなた、あるいはあなたの専門分野に興味があり、調べてきました」と準備をしていく必要があるでしょう。
たまに、小説家さんのツイートで、「『あなたはどんな作品を書いているんですか?』と質問されたことがある」ってのを見かけるのですが、Nooooo! ってなりますね。そういうのはやめてほしいなあ……。
下調べが必要な理由その3「つまらない質問をしない」
下調べしないで思いついた質問の多くは、ありきたりのつまらないものになりがち。相手は素人から100回ぐらい聞かれている可能性が高い。
ただ、何も知らない読者のために、100回ぐらい聞かれていることを聞くのも、またインタビューや取材ではあります。
下調べしたからといって、そこはすっ飛ばしていいものではありません。
そして、これはインタビューをやってみるとわかると思いますが、「飛び道具」みたいな“おもしろい”“めずらしい”質問ばかりでは、読者に何かを伝える記事を書くのはとても難しいです。
が、少しでも深みのある記事にするため、何度も何度も同じことを聞かれているインタビュー相手を退屈させないために、ちょっとした変化球をつけることは必要だと思っています。そのためには、下調べが欠かせません。
ざっと思いつく、下調べしたほうがいい理由ってこれぐらいでしょうか。
だからって下調べしたことを前提に聞かない
実は現場で大切になるのは、下調べするかしないかではなく、「下調べしたことをどういかすか」なんじゃないでしょうか。
専門誌でないかぎり、多くのインタビューは「読者は何も知らない」ことが前提。
インタビューを受ける側も、言葉にせずともその前提を共有していることは多いです。
たとえば、何かの作品の出演者インタビュー。インタビュー相手は、「ご新規さんを呼び込むため」の宣伝活動の一環として、インタビューを受けてくれるわけです。宇宙開発についての取材だとしたら、その分野について、幅広い人に知ってほしいから。
こっちが、「あのときこうこうでこうでしたよね」「これってこういう原理ですよね」と前提を話しすぎてしまうと、「基礎情報」が抜けてしまうんです。
許可を取って前提はこちらで書くこともありますし、取材記事だと、自前で調べたことと、相手から聞いたことを組み合わせて構成するのが基本です。
ただ、取材記事であっても、相手の言葉で一から説明してもらえるにこしたことはないです。インタビューだと、相手が言っていないことを書くわけにはいきません。インタビューの場合、地の文(「――あのときはこうおっしゃっていましたが?」とか、そういうやつ)ありだとカバーできますが、それも限界がある。
また、インタビュー相手や取材対象者のほとんどがとても親切なので、こちらが何も知らない前提で話してくれることが多いです。あるいは、「前提としてゼロからはじめないと、説明しきれない」というパターンも多いです。
最初は知らない前提で耳を傾け、聞いた話にさらに深みを持たせるため、下調べした知識を使って質問していくのが理想です。
この塩梅がときとしてとても難しいです。
たぶん、多くのライターは、「この取材、このインタビューでは何をどこまで下調べするか」「それをどう使って、どうやっていい話を引き出すか」に頭を悩ませているのではないでしょうか。
このへんは、ライティングにかぎらず、何かを交渉するとか、商談をするとか、何のお仕事でも似たところがあるかもしれません。
余談:下調べは命を救う
これは完全なる余談なのですが、下調べに救われることもあるんです。
褒められたことではないですが、はじめてインタビューする相手に、不用意な質問をしてしまったことがあったんです。
プライベートなことを聞いてしまったとかではなく、取材内容に関係あることではあったのですが……。「紋切型の質問だけど、その人は、『そういうことは直接語れないんです』といつも答えている」みたいな質問だったんです。
信頼関係があったら、やんわり「そういうことは直接語らないようにしています」と言われるだけだったと思います。ただ、そのときはいろいろな事情があって、ひたすらに場が凍りました。
「これは本気であることを見せなければいけない」と思って、「何々のときは、こうおっしゃっていましたが、今回は……」と、下調べ前提にした質問に切り替えました。それが功を奏したのかどうかはわかりませんが、その後は答えていただけました。
その方には今に至るまで、繰り返しインタビューする機会をいただくことができました。その後の機会をいただけたのは、雑誌と編集者の力なのですが、それでもありがたいことです。
インタビューに関しては、ほかにも「音声を文字にそのまま書き起こしたものだと、かえって意図が伝わらない」とか「定番の質問をどうひねるか」とか「どうする? 音声起こし」とか、いくつかトピックスがあるので、おいおい。とくに、「音声を文字にそのまま書き起こしたものだと、かえって意図が伝わらない」は、力説したいところです……!
「聞く」ことは、職業問わず、多くの人が何らかの形で行っているはず。ごく局地的な職業の話ではありますが、何かのお役に立てれば幸いです。