平凡

平凡

10年ごしの「買ってよかった2021」

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10年近く前。

ひとつのクッションを買った。

中東風のランプやラグが並んでいる店で、ひとめぼれ。

カバーは赤地で、南米の高原風の風景が刺繍されている。

デフォルメされた小さなアルパカ(たぶん)や草の刺繍は、どことなく8bit時代のテレビゲームのグラフィックを思わせる。

 

当時は独身で、2Kの部屋に引っ越したばかり。

1部屋にはロフトがあり、天井が高かった。

わたしは夢見た。

あの部屋にベッドを置いて、ソファがわりにしよう。

そんで、このクッションを置こう。

いつか恋人ができたら、ベッドに腰かけて、ふたりで映画とか見ちゃうんだ――。

 

しかし、部屋はいっこうに片付かない。

それどころか、仕事関係の雑誌や買った本が積み上がり、カオスを極めた。

広々としたロフトには溢れた本が運び込まれ、漫然と床を埋めつづけた。

 

ベッドを新たに置くどころか、日々の生活もままならない。

 

そんななか、のちに夫となる男性と付き合いはじめた。

彼がはじめてわたしの家に来ることになった日、わたしはとりあえず、彼を近所のファミレスに押し込んだ。

「1時間、いや、2時間ほどお待ちいただけませんでしょうか」と言い置いて帰宅したものの、とてもじゃないけど何から手を付けていいかわからない。

だいたい物が多すぎて、ごまかせる域を越えているのだ。

クイックルワイパーをかけ、水回りを掃除して、

「たいへん申し訳ないのですが、とても散らかっております。そんじょそこらの人間が、謙遜で『散らかっている』と言うのとワケが違うことをお含み置きください」

などなど釈明して、彼を部屋へと連れて来た。

彼は部屋を見ると、一瞬、何かをシャットダウンしたのち、「たしかに散らかってますね」とひと言言い、いつに変わらぬ柔和な表情を浮かべた。

そして我々の交際はつづき、結婚までいたった。

この世には、奇跡ってもんがあるんだぜ。

 

結婚し、その部屋から引っ越しても、ベッドは買わなかった。買えなかった。

相変わらず部屋はカオスだったからだ。

クッションは埃をかぶって、開かずのダンボールの上に置かれていた。

今年10月の引っ越しのさい、いくらなんでも生活環境を変えなければと思い、不用品をかなり処分した。

クッションも捨てようかと迷ったけれど、持ってきた。

 

そして、2021年12月、念願のベッドを買った。

hei-bon.hatenablog.com

マットレスが体をしっかり支えてくれるので寝心地がよく、何よりソファがわりになる。

そして、いよいよクッションである。

ダイソンの掃除機で長年の埃をしっかりと吸い、天日に干して、赤いクッションをベッドに置いた。

いい……!

夢にまで見た、「ソファ風にクッションが並んでいる、家具屋の広告写真のようなベッド」が実現した。

 

この前のM-1グランプリは、そのベッドに夫と腰かけて見た。

クッションを抱きかかえながら、オズワルドの漫才に笑った。

まだ並んで映画は見ていないけれど、夢が叶った瞬間であった。

2021年に買ったベッドフレームとマットレスが、10年近くの時を経て、クッションを「買ってよかった」ものにしてくれた。

 

ベッドに関しては、暖かい季節の湿気対策など未知の部分も多い。

けれど、ベッドフレームもマットレスも、そしてやっと日の目を見たクッションも大切にしていきたい。

 

今週のお題「買ってよかった2021」

 

写真は《草原の草を物色するアルパカ(ラクダ科)のフリー素材 https://www.pakutaso.com/20200904268post-25137.html