私たち夫婦は下戸だ。
飲む、即、蒼白という「受け付けない」レベルではないが、
サワーなら、グラスに2センチも飲めば、顔は真っ赤。
言動もかなりあやしくなる。
「お酒に弱いんです」と言っても、まさかそれほどと思わないらしく、
はじめて酒席をともにすると、たいていびっくりされる。
「ジュースみたい」と多くの人が言う甘いカクテルも、
私にとってはしっかりとアルコールの風味を感じて酔っぱらう、立派なお酒だ。
夫も私もお酒への耐性は変わらない。
よくぞこれほど体質が似通った人に出会ったものだと思う。
お酒が飲めないことで、残念に思うことは多々ある。
夜、食事をする場所は、少しばかり限られることになる。
近所で美味しいと評判の店や気になる店があっても、
居酒屋だと入ることはできない。
店を選ぶとき、酒を頼むのが不文律のルールかどうかは要チェックだ。
居酒屋ははっきりとわかるものの、蕎麦屋その他、判断が難しいお店も多い。
そういった場合、店構えと、食べログの客単価などを見て判断する。
外食時、ワンドリンク以上が必要だと感じたときは、お互いソフトドリンクをオーダーする。
めったにないことだが、フレンチやイタリアンでコース料理を食べるときも、
ソフトドリンクか水、置いていればノンアルコールのワイン。
ワインはアルコール分が強すぎて、まともに味わうことができないし、
何よりたちまち酔っぱらってしまう。
ノンアルコールドリンクをオーダーしても、
やはり注文の頻度は、お酒を嗜む人ほどには及ばない。
なんだか申し訳ない気持ちになる。
「料理とワインのマリアージュ」と聞くと、ああ、実感してみたいと思う。
蕎麦屋に入り、板わさや蕎麦がきでキューッと一杯やって、締めに蕎麦、なんて憧れる。
そういえば一度、早い夕食を食べに入ったとある蕎麦屋で、
無愛想だったはずの店主が、日本酒をオーダーしたテーブルにニコニコ解説しているのを見て、
やっぱりお酒と楽しんでほしいよね、と思ったこともある。
もっとも、「やっぱりさぁ、日本酒と合わせてこその蕎麦!」「この日本酒はどこどこ産でさ、こっちを飲まなきゃダメだよ!」と、
同席の女性に薀蓄を語り続けた客には、店主は大変無愛想に接していた。
酒が飲めればよいというものではないのだ、もちろん。
お酒が飲めなくてよい点は、家計と体に優しいことぐらいだろうか。
酒は百薬の長というが、厚生労働省によると、1日の飲酒適量はビール中ビン1本程度。
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/alcohol/a-03-003.html
これはキープするのが難しい量ではないだろうか。
また、私たちは車にあまり乗らないので、
「運転役に困らない」というメリットも享受できないのだった。
夫はサラリーマンをしているので、若いころは苦労したらしい。
立場がずっと上の人にお酌をされたら、度数が高いお酒でも、飲み干さねばならない。
真っ赤になった後は真っ青になって、トイレでうんうん唸っていたという。
今は若手ではなくなったので、そういったことがないのがありがたい、と言っていた。
私も新卒で入った会社では、しばしば、社長から紙パックの日本酒をお湯で割ったものを振る舞われ、やはり駅のトイレで唸ったことがある。
吐くほどに至らず、気分の悪さと、貧血状態で視界が悪くなって動けなくなるのだ。
だから、「若者の酒離れ」「飲み会離れ」も好ましいものと受け取っている。
「生まれ変わったら」なんて思うことはめったにないけれど、
アルコールが適度に楽しめる体質に生まれてみたいと、夫婦で話すことはある。
こればっかりは変えられないからだ。
と、ここまで書いたが、お酒が弱くてよかったことが、ひとつだけある。
夫が私のことをはじめて「いいな」と思ったのは、付き合いのある仲間内で飲酒したとき、
私が酒に酔って楽しそうに机を叩いている姿を見たとき、らしい。
下戸が下戸に引き寄せられて、げこげこ夫婦になる。
不思議な縁である。
ただ、そんなふたりにもし子どもが生まれたら、
十中八九、酒に弱くなるのかなと思うと、申し訳ない気持ちになる。
せめて、酒が飲めずとも食事も人生も楽しいと背中で教えるしかあるまい。*1
そんなふうに思っている。
*1:酒に極端に弱い者にとって、もっと大切なのは、酒席での酒の断り方だが