平凡

平凡

自分の話

インターネットの片隅に

そのホームページにどうやってたどりついたのか、もう覚えていない。 なつかしのHTML手打ちタグで作られた「いたばしのホームページ♪」。 トップページにいくつか並んだバナーから、「掲示板」をクリックすると、 多くのひとが集まり、他愛ない世間話や仕事…

コンビナートを見て育った

コンビナートを見て育った。 朝日は赤と白に塗り分けられた煙突や、巨大なガスタンク、複雑に絡み合った金属製のパイプを照らして昇るものだった。 近所には公害被害者のための療養施設があり、小学校で習う地域史でも、公害問題は大きくあつかわれていた。 …

三月の夕日

「時間は一方向に進んでいて、不可逆なものである」。 当たり前すぎるほど当たり前のことが、理解できていなかった。 それほどに、若いというより幼かった。 「もう、この夕日も見られへんのやなあ」 自転車を止めて、兄が言った。 兄とわたしの視線の先、 …

花束を持って保護猫カフェなんて行きたくない

保護猫カフェに通っている。 猫は生きものなので、当然、ときどき死ぬものもある。 体調を崩した猫は別室などに移され、店のスタッフに手厚く看護される。 ある客は寄付をし、ある客は療養食を贈り、たいていの客は祈る。 運よく快復するものもいれば、命を…

ネット普及以前、わたしたちはいかにして買い物をしていたのか

ネット普及以前、我々はどうやってモノを探していたのか。その記憶。

ここにいるのが好きだ

COVID-19のために、世の中はたいへんなことになった。 そんなときに「生き方を見直せた」と言うのは好きじゃない。 フェアじゃない、ように感じてしまう。 それでもやはり、世の中が変わると、ものの見方は変わる。見直さざるを得ない。 春、仕事が激減した…

もうその人には会えない

それは、楽しい仕事だった。 刺激的な取材を終え、わたしと編集者、カメラマンは 息を弾ませながら帰路についていた。 まだまだ寒い時期で、吐く息は白い。 一見、気難しいインタビュー相手になんとか食らいつき、 生き生きとした言葉が引き出せた。 その手…

わたしは、私

年明け早々、西武・そごうの広告が炎上した。 医学部の入試不正をはじめ、 ジェンダーギャップの存在をまざまざと見せつけられた2018年。 パイをぶつけられてしょんぼりし、 いやいや、しょんぼりしているだけではいけない、 次世代にこんなことを背負わせる…

片づけられない人間が見つけた限界片づけ術

この記事は、本当に、本当に、片づけられない人に向けて書いている。 もはや気力がない、どうしていいかわからない人に向けて書いている。 本当に片づけられない――というか、片づける気力がわかない人間にとって、 「どう取りかかるか」が最大の問題だ。 世…

母の人生

わたしは、ふつうになりたかった。 いまは、フリーランスで仕事をしていて、結婚していて。 自分なりの“ふつう”を手に入れたと、そんな気がしている。 わたしの母は、「父と結婚したのは失敗だった」とよく言っていた。 実際、そう思う。 父は悪人ではない。…

クロスバイク買ったら、ツイ婚できた話

突然だが、我々夫婦はツイッターで出会い、結婚した。 いわゆるツイ婚だ。 そのきっかけとなった転機といえば、 自転車に乗り始めたことか。 2011年の春。 わたしは突然、クロスバイクを買った。 周りの人は皆、驚いた。 わたしはインドア極まったタイプだか…

ゴースト・イン・ザ・スマートフォン。あるいはiPhoneとモバイルSuicaとビックカメラSuicaカードの話

春。 はじまりの季節。 新しいことをしようという気力がむくむくとわきあがり、 スマートフォンを変えた。 ついでに、ポイントを貯めやすいクレジットカードも作ってみた*1。 スマートフォンは、androidからiPhoneに。 クレジットカードは、「ビックカメラSu…

止まったときを、宝箱に閉じ込めるように

お気に入りの中華料理店が閉まるのだという。 噂は本当なのか? 半信半疑で平日の昼、足を運ぶ。 冬のこととはいえ、磨りガラスごしに日光がたっぷりと入り、店内は暖かい。 長テーブルの一角に座り、ラーメンを注文する。 わたしのほかには、ビールを手にザ…

旅の記憶

オーストリアの首都、ウィーンに降り立ったのは、5月も終わりのことだった。 旅の計画はこうだ。 オーストリアから南ドイツのミュンヘンへ。 そこから少しずつ北上、 北端の海辺の町まで到達したら南下して、 フランクフルトからパリへ抜け、帰国。 航空券の…

わたしたちの、静かな時間

「あー、だいぶ伸びちゃってるねー」。 そう言いながら、いっちゃんはわたしの髪に、鋏を入れる。 床に、パサッ、パサッと毛が落ちる。 ずいぶん年季の入ったコンクリートの床は、ところどころ黒い塗装がはげている。 代官山のはずれにある小さな美容室には…

桜が好きかと聞かれたら、はっきりと答えられない

桜が好きか、と聞かれたら、はっきりと答えられない自分がいる。 電車に乗っていて、歩いていて、視界に飛び込んでくる、淡い、淡い、ピンク色。 白にほんのり紅を垂らしたような色合いが、ある日突然、公園を、校庭を、土手を埋めつくす。 若葉が芽吹き切る…

自由に書く、しばられて書く

なんだかんだ、このブログをはじめてから1年半ほどが経過した。 更新間隔が1か月に1回という時期もあったので、 「続けている!」と実感があるわけではない。 それでも、はじめたころの記事は、すでに内容を忘れていたりして、 ああ、それなりに持続したのだ…

“家飲み”から“家お茶へ”

もうだいぶ前になるが、友人が結婚した。 挙式は、オーストラリアで。 当然、出席した。 中高生のころから彼女は、 「わたしは、結婚して、子どもを生んで、将来おかあさんになる」 と断言していた。 「まあ、いつかは子どももほしいし」 「やさしい旦那様と…

やるしかないのだ、何度でも

いきなりだが、わたしはいちおう、妊娠を希望している。 そのため、基礎体温を記録している。 基礎体温とは(知っている人も多いと思うが)、 起き抜けに体温計をくわえて測るあれだ。 専用の体温計を使うことで、日々の細かな体温の変化を記録することがで…

部活動、そのロールプレイと癒し

運動はとんとできない子どもであった。 暗い顔で、本ばかり読んでいた。 そんなわたしが大学に入ってすぐ、部活動に入った。 大学公認の、純然たる体育会系である。 比較的新しい競技なので、ややゆるい雰囲気ではあるものの、 それなりのしごきもある。 先…

フリーランス駆け出し時代を支えてくれたのは、ビビッドなピンクのケータイだった

特別お題「おもいでのケータイ」 フリーランスになって1年目のころ。 収入の不安定さ以上にこたえたのは、人とコンスタントに話すことのない生活だった。 会社に行って、好むと好まざるとにかかわらず、他人と話す。 そのことが、いかに貴重なことかを知った…

子どもの足音

木造の、古い古いアパート。 間取りは、かろうじてテーブルを置ける広さのダイニング・キッチンに6畳2間がついた2DK。 当然、家族連れが多く住んでいた。 そんな物件に、まかり間違ってひとりで入居したのは、 2011年の2月のこと。 わたしは独身で、夫とは…

雨宮まみさんに、ありがとうとさよならを

雨宮まみさんの連載コラム、「40歳がくる!」が更新された。 大和書房・WEB連載〜40歳がくる!MOB 雨宮 まみ vol14 これで最終回だ。 著者の雨宮さんが、11月15日に急逝されたから。 雨宮さんが亡くなったというニュースが流れたのは、 11月のよく晴れた日の…

フリーランスが仕事をもらうために必要な、たったひとつのこと

今日は結婚生活とはまったく関係のない、仕事について書こうと思う。 この記事の脚注で書いたことについて。 hei-bon.hatenablog.com フリーランスになって、10年たった。 「フリーになりたいけれど、仕事が来るか不安」。 同業者からそう聞くと、わたしは …

10年前の自分からのメッセージ。そして5年後の自分への伝言

10年前、仕事関係のアンケートで、「10年後の自分へ」メッセージを書いた。 同僚がやっていた仕事で、それがどう使われたのか、覚えていない。 変なアンケートだが、ともかく「10年後の自分に叶えていてほしいこと」を何項目か書いて、 ずっと覚えておけるよ…

こういう質問に答えていくと、ホームページ時代やミクシィのバトンを思い出しますね

今はなき「ザ・インタビューズ」に登録したとき、 あらかじめ用意された質問に答えているうち、 どんどん恥ずかしくなって、30分未満で退会してしまった。 人の回答を読むのは楽しいが、自分で書くのはダメだった。 しかし、やはり、こういったお題を見かけ…

ひとつになりたい、のかもしれない

ときどき、夢を見る。 ある夢では、凍りついた野山で、吹きすさぶ雪が顔を打っていた。 まつ毛に雪が積もって視界はせまく、 肌の感覚はすでに失われていた。 目を開けていられなくて、ああ、わたしはこのまま死ぬんだと思う。 そのとき心に去来するのは、恐…

誰かと過ごすとき、特別なことなんて何もしなくていいのかもしれない

母が上京する。 今住んでいる街を案内したくはあるのだが、我が家はいろいろと片付いておらず。 観光だけお供することとなった。 (申し訳ないことである) 待ち合わせ場所は銀座で、10時過ぎ。 その日、母はなりゆきで新幹線のチケットを取って帰るので、解…

ソーダ水のようなしあわせ

今年の夏は、なんだか溶けそうだった。 例年に比べてそんなに暑かったわけではないけれど、 じりじりとした陽光にやかれていると、 自分の境界線がぼんやりとしてくるので、 「わたしはこれこれこういう職業に就いていて、 結婚していて、 いま、こういう仕…

ちょっとした優しさは巡り巡るのです、そう、たぶん、苹果のように。

「あの、ひょっとして、よろしかったら」 友人はそう言って、我々の前に立っていた女性に、席をゆずった。 今から10年ほど前だろうか。 胸元から広がるデザインのチュニックが、流行りに流行っていたころだ。 その女性も、そういったトップスを身に着けてい…