むかしのこと
特別お題「おもいでのケータイ」 フリーランスになって1年目のころ。 収入の不安定さ以上にこたえたのは、人とコンスタントに話すことのない生活だった。 会社に行って、好むと好まざるとにかかわらず、他人と話す。 そのことが、いかに貴重なことかを知った…
ティラミス、という食べ物がある。 生地は、エスプレッソが染みこませてあって、苦い。 その間に挟まれたカスタード状のクリームやマスカルポーネチーズは、甘い。 甘い、苦い、甘い、苦い。 ひとつのお菓子のなかに、その繰り返しがある。 生地はホロホロと…
木造の、古い古いアパート。 間取りは、かろうじてテーブルを置ける広さのダイニング・キッチンに6畳2間がついた2DK。 当然、家族連れが多く住んでいた。 そんな物件に、まかり間違ってひとりで入居したのは、 2011年の2月のこと。 わたしは独身で、夫とは…
羽毛布団を、捨てようと思う。 この布団を使うようになったのは、はるか昔、もう30年も前のことだ。 そのころ、わたしの実家は新築フィーバーにわいていた。 憧れのフローリング、 小さな玄関の吹き抜け、 そして子どもたちにとっては、念願のひとり部屋。 …
オンエア当時、狂ったように見まくっていたCMがある。 永作博美が出演していた「月桂冠 月」の一連のシリーズだ。 CMソングは、安藤裕子の「のうぜんかつら(リプライズ)」。 とくに、「ふたりの貝」編が好きだった。 CMは、永作博美*1演じる妻が、畳の上で…
思春期のころは、ずっと死にたかった。 最初は、その年ごろにありがちな、厭世的な思考だった。 「町で一番高いマンションから、飛び降りちゃおうかな」。 あくまで自分の意思で。選ぶのは、私。 それが当初考えていた、「自殺」だった。 しかし、精神の調子…
新卒で入った会社には、丸2年しか勤めなかった。 10人前後の小さな企業だったこともあり、後輩をもった機会はわずか1回きり。 その人は、40絡みの男性だった。 くたびれたスーツを着て、どこかだらしなく見えた。 「美味しんぼ」初期の山岡をリアルにしたら…
幼いころから、眉間に皺ばかりよせている子どもだった。 そのころ考えていたことでよく覚えているのが、 「人生とは、砂漠をひとりで歩くようなもの。 どうやって歩いていけばよいか」。 結婚とは、年齢がきたら適当な相手と❝してしまうもの❞。 そして、どう…