2022年秋アニメ、何を見ていますか?
『機動戦士ガンダム 水星の魔女』『チェーンソーマン』『ぼっち・ざ・ろっく!』……。
今期はなかなか粒ぞろいで忙しいですね。
わたしが上記に加えて見ているのが、『アキバ冥途戦争』です。
『アキバ冥途戦争』は、2022年10月から放送スタートしたオリジナルアニメ。
アニメ制作はP.A.WORKS、共同製作にはCygamesが名を連ねています。
オリジナルアニメでCygamesといえば、ゾンビものかと思いきや、「ゾンビ少女たちが、佐賀で超熱くアイドル活動をする」意外性のある内容で人気を博した『ゾンビランドサガ』が記憶に新しいところ。何が飛び出すかわからない楽しさがあります。
一方、P.A.WORKSは『花咲くいろは』『SHIROBAKO』などお仕事アニメで知られているので、「メイドさんのお仕事ものでは?」といった期待感もありました。
蓋を開ければ、『アキバ冥途戦争』は1999年の秋葉原で、メイドカフェの店員たちが抗争を繰り広げるという「萌えと暴力について」というキャッチフレーズ通りの内容。
第1話では指ならぬツインテールをドスで詰められる冥途、もといメイドの姿が視聴者の度肝を抜きました。
ちなみに、1999年の秋葉原に「メイドカフェ」はありません。断言はできませんが、コンセプトカフェが一般的になったのは2000年代に入ってからのはず。
ただ、物語冒頭では1985年の抗争の一端として、メイドが銃殺されるシーンが挿入されており、「つまりはそういう世界線、リアリティの作品です」としっかり示されています。
時代考証は考えても無駄、ということです。
登場人物の行動原理はだいたい「メンツ」か「金」。そしてとっても短絡的。すぐにドンパチが始まります。
今どき見かけない元気な内容なのですが、絵もセリフも作り込まれていて、安っぽさは感じない。
「いい意味で悪趣味ギリギリを攻めてくるパロディ作品だな~」と、ゆる~く楽しんでいたのですが、どっこいどっこい、6話、7話まで見ると印象が変わったのです。
そこにはパロディがオリジナルになる瞬間、もっと乱暴に言えば、ニセモノがホンモノになる瞬間がありました。
今日はそれについて話そうと思います。
物語は、メイドに憧れる17歳の女の子、和平なごみが上京し、メイドカフェ「とんとことん」に入店するところからはじまります。
「こんとことん」は豚のメイドカフェ。メイドが豚耳をつけ、「ぶ~」を語尾につけてしゃべる、というコンセプトです。
なごみと一緒に入店した万年嵐子(まんねんらんこ)はなんと35歳。無口で一人称は「自分」。「頂戴します」など、丁寧というより時代がかったセリフでしゃべります。
戸惑いつつもお給仕を開始するなごみですが、別系列の店舗「チュキチュキつきちゃん」へと、嵐子とともにお使いに行ったことから運命が暗転。
そのお店でなごみに絡んだメイドを、嵐子がなんと銃殺。対して、別系列店のメイドたちも銃を取り出し、銃撃戦が始まります。
「とんとことん」のトップメイド・ゆめちが歌う軽快な萌えキュンソングをバックにして展開する激しい撃ち合い。
嵐子に撃たれ、ぴゅーっと血を流しながら、時には揃って倒れるメイドたち。
返り血を浴びながら、ドン引きするなごみ。
かっこよくもあり、なかなか悪趣味ポップな画面作りでもあり、「これはギャグなのか? マジなのか?」と混乱しました。
そんなこんなで第2話では上納金の滞納で闇カジノに手を出し、第3話ではやはり上納金の滞納で闇ボクシングに参加する「とんとことん」のメイドたち。
第4話では洗脳まがいの自己啓発、第5話では所属メイドの誕生日祝いがかち合ったという理由で、同系列店のメイドからなごみと嵐子が監禁され……。
各話、暴力が暴力を呼び、あっけらかんと暴力で解決していて楽しいですが、この物語はどこへ行くのか? と考えるとわからなくなるわけです。
各エピソードで、なごみは一貫して暴力が支配するメイドの世界に引いており、「戦いたくない」と口にしています。
「主人公は最初と最後で一番変化がある人物」という物語のセオリーを考えると、なごみはいつか銃を取り、戦いに参加するのか?
それともドン引きしつつ、暴力メイドの世界を案内する狂言回しのままなのか?
もうひとつ気になったのが、この物語の本質です。
登場するキャラクター達は、メイド+任侠というより、ほぼ任侠です。
では、任侠のガワを美少女メイドにした物語で終わっていくのか?
1話~5話までを見ているとき、同作内でのメイドと任侠の関係性は、漫画『鍋に弾丸を受けながら』に近いものがありました。
この漫画は、危ない地域の危ないグルメを堪能するノンフィクションリポートなのですが、登場人物は美少女オンリー。
なぜなら、主人公の脳は長年の二次元コンテンツの過剰摂取で壊れており、「目に映る人間のすべてが美少女に映る」から。
何を言っているかわからないかもしれないですが、作品を読めばおわかりいただけることと思います。
鍋に弾丸を受けながら - Webで漫画が無料で読める!コミックNewtype
『鍋に弾丸を受けながら』は、美少女×危険地帯のグルメリポートという唯一無二の内容でパロディではありませんが……。
内容は違えど、“置き換え”の手法として連想したのが『鍋に弾丸を受けながら』だったのでした。
ようするに、『アキバ冥途戦争』は、任侠のいかつい男たちを美少女に置き換えた作品なのか? と。
でもそうじゃなかった。
第6話では、服役していた敵対グループのメイド、愛美(まなみ)が出所します。
武闘派の愛美は、いわば古い任侠。
自分たちの傘下「チュキチュキつきちゃん」が「とんとことん」につぶされたと知り、激昂。
「とんとことん」をつぶそうと提案します。
が、グループのトップは愛美の服役中に代替わりしており、「もう切ったはったの時代ではない」と説きますが、愛美はそんなこと聞きません。
単独で「とんとことん」を狙い始めます。
この愛美がすごいんですよ。
もはや萌えボイスですらしゃべらない。全編低音で、セリフは全部こってこての広島弁。ちなみに演じるユリン千晶さんは広島ご出身なので、ネイティブのようです。オーディションでは、「もっと低く、もっと低く」と言われたとか*1。
表情も不敵で、メイドの服はまとっていますが、赤いバットを構えた姿はなんていうか……チンピラそのもの。
それも『闇金ウシジマくん』流にいうなら、《人間の頭を迷いなくバットでフルスイングできる》タイプです。
この愛美のエピソードは、「変わってしまった世間に取り残された古い任侠」を描くもの。
自らの姿勢を貫く中、次第に追い詰められていく姿には哀愁がただよい、見る者を惹きつけます。
任侠ものにはあまり詳しくないですが、定番のエピソードではないでしょうか。
エピソードの骨子としては、もはやパロディですらありません。完全に任侠物です。
ただ、そこに風穴を開けるのが、主人公のなごみです。
なごみはこの抗争で大切な友人(メイド)を失い、「とんとことん」から姿を消します。
しかし――。
やがて大切な友人のご主人様(ファン、客)から、彼女の思いを聞かされた彼女は覚醒。
自分なりの戦い方で、愛美を追い詰めるのです。
そこで、「メイドだって(時代とともに)変わるんだ」「わたしはあなたを許さない。でも、殺さない」と自らの“メイド道”を宣言。
なごみが愛美に向かって「メイドなら萌え萌えキュンキュンしろよ! 『萌え! 萌え! キュン! キュン!』」と叫び、ポーズを作るシーンは熱い……熱いんだけど明らかにおかしくて笑ってしまう……でもやっぱり胸が熱くなる……という、感情の行き場に困る名シーンでした。
ええ、迷シーンではなく、間違えなく名シーンなのです。
この7話で、「『アキバ冥途戦争』とは何か」がはっきりと示されました。
任侠もののパロディでありつつも、暴力メイドが闊歩する世界にあって、新たな“メイド道”をめざす女の子の軌跡を描くもの。
それは、パロディがまごうことなきオリジナルになった瞬間でした。
しかし、その直後の8話ではなんと、愛美の弔いのために敵対グループと「とんとことん」のメンバーが野球で対戦することに!
和やかでギャグいっぱいの野球回になるかと思いきや、ほぼチンピラである彼女たちがまともに野球をやるはずもなく……。
なごみが「フェアプレーを!」と呼びかけ、貫くなか、敵も感化されていくのですが、当然、『アキバ冥途戦争』がそんなきれいな形で終わるわけがありません。
作品名を検索すると出てくるジャンルが「ブラックジョーク」になっているのも納得の、ものすごい……笑っていいのか悪いのかわからない……ものすごい展開がありました。
そして、12月8日にオンエアされた最新10話では、嵐子の過去の因縁が絡むエピソードがスタート。おそらくこのエピソードが転がり、ラストへ向かうものと思われます。
強敵との戦いが予想される中、義理人情の人・嵐子は、そして、新たな“メイド道”に目覚めたなごみは、何を見せてくれるのでしょうか。
何より、あっさり人が死んでいくこの作品にあって、ふたりは生き残れるのでしょうか……。
パロディをやりつつも、どこへ向かうかわからないオリジナルアニメのおもしろさをしっかりと備えた作品、『アキバ冥途戦争』。
最終回まであとわずか。
『アキバ冥途戦争』の行く末を、しっかりと見届けたいと思います!
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画像は写真ACよりお借りしました。《