「イカす」ということばがある。
かつての若者ことばで、今は死語に近い。
もちろん、意味は「カッコいい」「魅力的」。
一定以上の年齢の方なら、
「いかすバンド天国」なんて番組名がすぐに浮かぶかもしれない。
ところで、最近、SNSで、
「人生で一番大切なのは、金でも、セックスでも、恋でもない。デートすることだ」
ということばがシェアされていた。
ミュージシャンの岡村靖幸氏の言らしい。
ちょうど別の人と、人生に大切なことは何かについて話していたとき、
「たまのおいしい食事と旅行。それと女性とのデート。
敬愛する岡村靖幸いわく、
『金でもセックスでも恋でもなく、デートが大切』ってね。
すごくわかる。デート、これですよ」
と言っていた。
シンクロニシティというよりは、直近のライブで語った内容らしい。
わたしは共感はしないけれど、なんとなく、なんとなく、わかる気はする。
昭和風にいえば、デートはイカすってことじゃなかろうか。
イカすもの、それはきらめきを与えてくれるもの。
これをしているとき、「人生を謳歌している」と感じられるもの。
人生を根底で駆動させるもの。
日常を支えてくれるよろこび。
「イカす」って、「生かす」に通じるのかもしれない、と思ったりする。
わたしにとって「イカす」ものってなんだろうと考えたとき、
パッと浮かんだのは、夫との生活だ。
何も起こらなさそうな平穏無事な街で、
お互いの違った視点で
動植物の小さな変化を見つける。
日々の食卓を囲む。
ふたりでくっつき、丸くなって眠る。
一見、刺激ともっとも縁遠く、
しかし、わたしにとっては、もっとも最先端なもの。
不動のように見えて、
ふたりの関係を繊細にメンテナンスし続けなければ得られないもの。
たぶん、こうして平凡な生活を書き綴っているのも、
わたしにとっては新鮮なものだからだろう。
岡村氏のファンには、「そういうことじゃない」と怒られそうだが、
氏の名言を耳にして考えたことは、そんなことなのだった。
どこかで見た、ありふれた、なつかしくすらある、未知の世界。
平穏なきらめき。
そんなものを、忘れないように綴っていけたらと思う。