平凡

平凡

世間知らずのころ

新卒で入った会社には、丸2年しか勤めなかった。

10人前後の小さな企業だったこともあり、後輩をもった機会はわずか1回きり。

その人は、40絡みの男性だった。

くたびれたスーツを着て、どこかだらしなく見えた。

美味しんぼ」初期の山岡をリアルにしたら、こんな感じかもしれないな、と思った。

 

社内歴では先輩後輩だが、こちらは新卒で入ったぺーぺー。

その人はもちろん経験者で年上。

気まずくて、あまり話さなかった。

 

社長はその男性について、「せっかく入れたのにぜんぜん使えませんよ!」と

ギャンギャン騒いでいたが、それはいつものこと。

その人が仕事ができたのか、できなかったのか、今でもわからない。

 

入社から日を置かずして、その人宛に、電話がかかってくるようになった。

「佐藤」「山田」「加藤」、どこにでもありそうな名前を言うものの、社名は名乗らない。

取引先の人間関係は限られている。

発注元の会社、外注の業者、フリーランスの人たち。

そのどれでもない人物から、新人に電話がかかってくる。

不思議だった。

 

ほどなくして、男性は会社を辞めてしまった。

3カ月ほどだろうか。

社長のパワハラが原因なのか、それとも謎の電話のためなのか、よくわからない。

いつの間にかいなくなっていた。

 

その後、私も会社を辞めた。

ボーッとしている期間に、ふと、「借金は怖い」と訴えるコラムを見つけた。

読んでいるうち、男性への電話が、おそらく借金の取り立てか、金を借りたときの信用調査かだとわかった。

 

入社直後から電話がひっきりなしだったことを考えると、彼の置かれた状況は切羽詰まったものであったろう。

けっして高くはない給料。

社長のパワハラ

その人の卑屈な笑い方。

記憶を紐解くと、

喫煙所にある、水をためるタイプの灰皿が放つ、

すえたにおいをかいだときのような心持ちになる。

吸殻がぎっしり詰まっている、濁った水。

 

あの「新人」は、辞職後どうしたんだろう。

あまり明るい未来はありそうにないが、

「過払い金」のCMを見るたびに、何かのはずみで、

人生の軌道修正ができていればよいなと都合のよいことを考えたりもする。

 

今週のお題「印象に残っている新人」