平凡

平凡

結婚したって実感した

10月の三連休は、夫も私も、仕事に追われていた。

束の間、スーパーへ買い物に行こうとなり、

私たちはいつも通り手をつないで出かけた。

 

近所の池を通りかかる。

気まぐれに稼働する噴水が、珍しく水しぶきを上げており、

秋空にきらめく水滴は、どこか寒々しかった。

 

カラリと晴れて空気は冷涼。

Tシャツにパーカーでは、心細い。

もうそんな季節かと思いながら、池をのぞき込む。

 

噴水のしぶきも届かぬ池の端は静かなもので、

水はいつになく澄んでいた。

じぃっと見ていると、細くて小さなメダカが目に入り、

それがかえって物寂しさを感じさせた。

 

春、私たちは同じように池に立ち寄り、その生命の豊饒さに驚いたものだ。

水草には蛙の卵が絡みつき、小さなおたまじゃくしが群れをなし、

メダカたちがすばしっこく移動していた。

 

初夏、おたまじゃくしに脚が生えているのを見たときは、

水辺の生物の捕獲にいそしんだ幼いころの思い出を、互いに夫婦で話した。

「たくさんおたまじゃくしを捕まえて、けっきょく、田んぼに戻したっけ」

 

夏には、昼夜を問わず、かまびすしい蛙の鳴き声が響いていた。

蛙たちは草むらに隠れているらしく、姿はひとつも見えないものの、

私たちが近づくとピタッと鳴きやむのだ。

意外な危機察知能力の高さに、ふたりで感心した。

 

そして秋、もう、おたまじゃくしも蛙もいない。

と思ったら、小さな小さな、親指の先にでも乗りそうな蛙を、石の上に見つけた。

鮮やかな黄緑色の小さな体は、作り物のよう。

石から石へ、ぴょん、ぴょんと飛ぶのがなんとも可愛らしかった。

「小さいねえ」

「可愛いねえ」

「冬眠、するのかなあ」

「あとひと月もしたら、ずいぶん寒くなるね」

「蛙とは、春までお別れかな」

 

話しているうち、

ああ、私たち、結婚したのだな、と実感した。

 

今年も来年も再来年ももっと先も、

こうやってこまごまとした変化をふたりで感じていく。

そんな平凡な未来像が、鮮やかに私の中に浮かんだ。

 

夫を見て、

「なんか、結婚したって感じがする」

と言うと、

「うん、すごくする」

と、どこか真面目な顔で返された。

 

もうすぐ共に暮らして一年。

そろそろ新婚とは呼べない、秋のできごとだった。