平凡

平凡

川上弘美と輝夜月

川上弘美の短編集「神様」。 そのなかに、「コスミスミコ」という登場人物が出てくる。 螺鈿の壺をこすると出てくる彼女は、 どうやら「チジョウノモツレ」から人から刺され、幽霊になったらしい。 しかしながら、彼女は愛らしい容姿をもち、 まったくもって…

猫好きの星、保護猫カフェに現れる「猫貴族」

夫婦揃って、猫狂いだ。 最近では、お気に入りの猫カフェを見つけ、 休日はいそいそと出かけている。 わたしたちが通っているのは、譲渡型保護猫カフェ。 保護猫、というのは、捨てられたり、野外で生まれたり、 そんなところを人間に保護された猫のこと。 …

あのころ、カヒミ・カリィがわたしのアイドルだった

驚いた。 こんな世界があるのかと思った。 20年近く前、春休み直前のころだったと思う。 東京からの転校生が、こう言った。 「カヒミ・カリィって知ってる?」 「えっ、カヒミ……何……?」 耳慣れない名前を、何度か聞き返したことを覚えている。 なんでもその…

止まったときを、宝箱に閉じ込めるように

お気に入りの中華料理店が閉まるのだという。 噂は本当なのか? 半信半疑で平日の昼、足を運ぶ。 冬のこととはいえ、磨りガラスごしに日光がたっぷりと入り、店内は暖かい。 長テーブルの一角に座り、ラーメンを注文する。 わたしのほかには、ビールを手にザ…

春、自己紹介にかえて

春の休日、川べりを夫婦で歩く。 橋の上から水辺を見ていると、鯉たちが、餌を求めて寄ってくる。 わたしたちは、餌をやる気はない。 鯉たちはあきらめず、パクパクと川面に水紋を広げつづける。 「なんだか悪い気がするね」とその場を離れる。 次の橋からは…

「親なるもの 断崖」と大相撲

「親なるもの 断崖」という漫画がある。 昭和初期、北海道・室蘭の遊郭に売られた少女の人生を描く作品だ。 幼いころは親に従い、結婚しては夫に従い、老いては子に従い、 女性に安住の地はないという成句「女三界に家なし」があるが、 親に売られた女性たち…

「月曜日の友達」があまりにもすごくて、読むたびに感情が無茶苦茶になってしまうけれど、がんばって感想を書く

人が、子どもから大人になる瞬間。 その脱皮の痛みとうつくしさ。 それを全2巻で描き切った作品が、「月曜日の友達」だと思う。 1巻書影。 「月曜日の友達」は、阿部共実による漫画作品。 連載誌は、「週刊ビッグコミックスピリッツ」。 中学に上がったばか…

旅の記憶

オーストリアの首都、ウィーンに降り立ったのは、5月も終わりのことだった。 旅の計画はこうだ。 オーストリアから南ドイツのミュンヘンへ。 そこから少しずつ北上、 北端の海辺の町まで到達したら南下して、 フランクフルトからパリへ抜け、帰国。 航空券の…

突然の多チャンネル化

結婚してから、なんとなく仕事の調子が悪かった。 仕事の受注は順調なのだが、わたし自身、まったくついていけない。 常に振り回されている感覚があった。 夫は家事と仕事だったら断然、仕事を優先してねという。 夫自身も、休日は、家事を積極的にやる。 仕…

3月の夕焼け

「もう、こんな夕焼けも見られへんのやなあ 」。 その日、兄はそう言った。 わたしたちの眼前には田んぼが広がり、その先には青い山影。 そこへ、大きな夕日が沈もうとしていた。 わたしたちはその日、ママチャリに乗って、あてもなく国道沿いを走り、 大き…

わたしたちの、静かな時間

「あー、だいぶ伸びちゃってるねー」。 そう言いながら、いっちゃんはわたしの髪に、鋏を入れる。 床に、パサッ、パサッと毛が落ちる。 ずいぶん年季の入ったコンクリートの床は、ところどころ黒い塗装がはげている。 代官山のはずれにある小さな美容室には…

桜が好きかと聞かれたら、はっきりと答えられない

桜が好きか、と聞かれたら、はっきりと答えられない自分がいる。 電車に乗っていて、歩いていて、視界に飛び込んでくる、淡い、淡い、ピンク色。 白にほんのり紅を垂らしたような色合いが、ある日突然、公園を、校庭を、土手を埋めつくす。 若葉が芽吹き切る…

ダナンの長い夜、あるいは海外旅行保険には必ず入っとこうという話1

最初に書いておくと、けっこう長い。 今回は、海外旅行中、体調を崩し、 医者にかかった体験を、2回に分けて書く。 先に、1、2をあわせて伝えたいことをまとめると、以下の通りだ。 海外で体調を崩し、ヤバいと思ったら、さっさと保険を頼って医者にかかろ…

家事にエンタメ性を求めた者の末路

「今日こそこれをやろう!」 ババーン! と擬音が出そうな勢いで夫が差し出したのは、洗濯槽の洗浄剤。 「汚れがごっそり取れる!」「ワカメのようなものが浮いてくる!」とネットで評判の酵素系。 秘蔵の「シャボン玉石けん 洗たく槽クリーナー」である。 w…

変哲のない月曜日

変哲のない月曜日。 夫婦ともども、早めに仕事が切りあがった。 最寄り駅で待ち合わせ、いつもの中華料理屋に向かう。 梅雨の湿気に、気が早い真夏の熱気が混ざり合った空気は、ムッとしている。 この前、同じような偶然があって、仕事終わりに待ち合せたと…

自由に書く、しばられて書く

なんだかんだ、このブログをはじめてから1年半ほどが経過した。 更新間隔が1か月に1回という時期もあったので、 「続けている!」と実感があるわけではない。 それでも、はじめたころの記事は、すでに内容を忘れていたりして、 ああ、それなりに持続したのだ…

「けものフレンズ」と時代

最初に断っておくが、この文章ではアニメ「けものフレンズ」の結末にふれている。 終了からもうすぐ3か月以上たとうとしているが、 2017年冬アニメでは、夫婦そろって「けものフレンズ」を毎週楽しみにしていた。 「けものフレンズ」の舞台は、美少女化した…

眠れる自転車乗りたちの言い訳探しは続く

わたしたち夫婦の共通の趣味のひとつ、それがサイクリングだ。 わたしはクロスバイク、夫はロードバイクを所有している。 当然、2台の自転車は室内保管。 昨年の引っ越しに際しては、 保管場所が確保できる間取り・広さも条件となった。 生活スペースにそれ…

黄金の休日、黄金の長野・野沢温泉 その2

野沢温泉2日目。 朝は早めに起きて、宿から近い上寺湯へ。 熊の手洗湯と、泉質は似ている。 源泉が同じなのかもしれない。 熱めのお湯で目が覚めた。 ……とはいえ、朝食後、ひと眠りしてからチェックアウト。 2日目は、 駅でもらったいくつかのパンフレットか…

黄金の休日、黄金の長野・野沢温泉 その1

梅雨でくさくさするので、 今さらだがゴールデンウィークの話を。ゴールデンウィーク、我が家は長野・野沢温泉へ。 黄金週間は価格も黄金が常ではあるけれど、 なんと価格がふだんと変わらない宿を夫が見つけてくれた。 1泊2食付き8000円台。*1 これは行くし…

小さな継承

わたしは歌うのが好きだ。 と書くと、「歌が上手い」と連想する向きもあろうが、 事実はむしろ反対である。 下手の横好き。 つまり、わたしはいわゆる音痴なのだ。 謙遜で言うようなかわいいものではない。 本気の本気、今様に言うなら“ガチ”である。 さらに…

“家飲み”から“家お茶へ”

もうだいぶ前になるが、友人が結婚した。 挙式は、オーストラリアで。 当然、出席した。 中高生のころから彼女は、 「わたしは、結婚して、子どもを生んで、将来おかあさんになる」 と断言していた。 「まあ、いつかは子どももほしいし」 「やさしい旦那様と…

「いつかあなたにも、そんな相手が見つかるよ」とその人は言った

まず、「ツチノコ」の話をしよう。 もし、世界に「ツチノコ」という概念がなかったなら。 当然、「ツチノコ」を捕まえようとは思わないだろう。 そして、仮に「ツチノコ」を見ても、特異な存在とはわからないはずだ。 「ちょっと太った蛇がいるわ」などと思…

精算する男

もう梅雨も間近だけれど、少し前の話。 フリーランスの春といえば、確定申告である。 結婚以来、夫は毎年確定申告を手伝ってくれるようになった。 腰が重いわたしに再三、夫は「確定申告、だいじょうぶ?」と声をかける。 遅まきながら領収書を集めて渡すと…

異種族としての猫

最近はもっぱら、夫婦で看板猫のいる店巡りをしている。店では、猫と人間が、さまざまな関係をむすんでいる。 それを見るのも、看板猫巡りの醍醐味である。 ある店にいるのは、色柄そっくりな4兄妹だ。 店を訪れると、開店準備中にもかかわらず、店主は中に…

「貧むす」と「夜廻り猫」

スーパーで買い物中。 思うところあって、三つ葉と天かすをカゴに入れる。 夕食後、天かすに白だしとしょうゆをしみこませ、 三つ葉を刻み、余ったごはんと混ぜ合わせる。 明日の朝食にするのだ。 食べてみると、 天かすの油分とコク、 三つ葉の爽やかさと茎…

三つの顔をもつ男

猫に相対するとき、夫は三つの顔を見せる。 たとえば。 土曜日、映画を見て終電近くなる。 そんなとき、商店街を横切る猫の姿。 見慣れないハチワレちゃんである。 我々夫婦は、わああ、とおよそ中年と思えぬ声をあげて、猫を追う。 夫は前にちらっと見た猫…

やるしかないのだ、何度でも

いきなりだが、わたしはいちおう、妊娠を希望している。 そのため、基礎体温を記録している。 基礎体温とは(知っている人も多いと思うが)、 起き抜けに体温計をくわえて測るあれだ。 専用の体温計を使うことで、日々の細かな体温の変化を記録することがで…

夢の永久機関、その名は豆苗

鍋物ざんまいだった冬。*1 苦しまぎれの中華鍋に、豆苗を入れたときだった。 「豆苗って、家で栽培できるんだって!」と夫が興奮気味に言った。 好奇心旺盛な夫は、豆苗のパッケージをふんふんと読んでいた。 そして、「水につければ収穫できます」と、 ご丁…

近所のお祭り、その名状しがたきよろこびよ

近所の商店会が、何か小さな催しをやるという。 入場料に500円を取り、ちょっとした屋台で焼きそばやたこ焼き、焼き芋などを食べさせるらしい。 入場料? 手作りの会で、一律取るのだろうか。 そして、チラシを見ても、食べ物が有料なのか無料なのかわからな…