突然だが、我々夫婦はツイッターで出会い、結婚した。
いわゆるツイ婚だ。
そのきっかけとなった転機といえば、
自転車に乗り始めたことか。
2011年の春。
わたしは突然、クロスバイクを買った。
周りの人は皆、驚いた。
わたしはインドア極まったタイプだからだ。
乗り始めたのは、自転車店でたまたままたがったから。
自転車店に行ったのは、そもそも、ママチャリを買いに行ったから。
ひょいっとまたがったら、
それまで眼中にもなかった"クロスバイク"なるものが、
すごくカッコよく感じたのだ*1。
一目ぼれから始まった自転車ライフだったが、
納車されると、その乗り心地にすっかり魅せられてしまった。
ペダルを最初にこいだときの、どこまでも行けそうな気持は、いまも覚えている。
わたしのツイッターは、自転車一色になった。
趣味に特化してつぶやくと、フォロワーもわずかに増えた。
ほとんどが、同じ時期にロードバイクやクロスバイクに乗りはじめた人たちだった。
そのなかのひとりが、のちの夫だ。
ある日、夫が自転車の展示会「サイクルモード」のチケットが余っていると連絡をくれた。
ネットを介して会うのは怖かろうと、かなり気を遣った文面だった。
複数人に声をかけているとも書いてあった。
ふだんのツイート通り、まともな人なのだろうと察せられた*2。
そのことをきっかけに、夫をふくめた同業界自転車ビギナーでゆるくつながるようになった。
「サイクルモード」にみんなで行って遊んだり、
自転車まわりのグッズをみんなで買いに行ったり。
そのうち、フリーの同業者で面白い人がいると紹介してもらったり、
自転車関係なく、つながりはゆるく広がっていった*3。
書店をめぐったり、イベントに参加したり。
で、いつも夫がいたのである。
なぜなら、我々の趣味は似ていたからだ。
決定打は、仲間のひとりが「猫を見に来ませんか」と誘ってくれたことだ。
夫とわたしは無類の猫好き。
ぜひにぜひにとお願いし、いそいそと手土産を買って遊びに行った。
それからなんやかや、
行きたいイベントが一緒だったりして、
2人きりで会うようになり、
いつしか会わない週末はつまらないと感じるようになり、
会うたびに「『ヱヴァンゲリヲン』の新作が公開されますよ!」「いいですねえ!」
「奥多摩にいいレンタサイクルが」「いいですねえ!」
「寒いですねえ!」「ああっ、鍋、鍋食べに行きましょう!」
などなど理由をこじつけて会うようになり、付き合うにいたったのだった。
ツイッターでの言動に惚れたわけではないし、
2年近くはただの知人だったので、
ツイ婚と言ってよいかわからないが、
そんなわけで我々は結婚したのであった。
ただ、ふだんは説明がめんどうくさいので、
「同じ業界の~、ゆるい趣味の集まりがあって~」と言っている。
それも嘘ではないのだが。
クロスバイクが納車されたのは、ちょうどこんな季節だった。
どこまでも、いつまでもこいでいけそうなこぎ心地。
車道に接地したタイヤがたてる心地よい音。
このクロスバイクに乗ってさえいれば、
世界のどこにでもこいでいけるのではないかと感じたものだ。
そして実際、いろいろな場所へ連れて行ってくれた。
車道を縦横無尽に駆け抜けていると、見知ったはずの街でも、
見えるものがまったくちがう。
気持ちよくぐんぐん進んでいるうちに、
人生で見える風景までもが、まったく変わってしまった。
ふたりの住まいには、いまもクロスバイクとロードバイクが並んでいる。
もし、あのとき、クロスバイクにまたがらなかったら?
夫のツイッターアカウント自体は、同業界内のRTで知ってはいた。
なので、おそらく「ツイッターでときどき見かける人」止まりだったろう。
スポーツ自転車全般に興味がなかったわたしが、なぜあの日、
クロスバイクにまたがったのかはわからない。
が、自転車に乗り始めた、というより、
クロスバイクにまたがったあの瞬間が、
人生の転機であったことは間違えがないと思う。